宇佐和通『都市伝説の正体』祥伝社新書

都市伝説の正体-こんな話を聞いたことはありませんか? (祥伝社新書159)

都市伝説の正体-こんな話を聞いたことはありませんか? (祥伝社新書159)

こんな話を聞いたことがありませんか?

本書は、各地に点在する「都市伝説」をまとめ、体系化した、いわば「都市伝説の研究本」です。都市伝説について、著者はこう定義しています。

”友だちの友だち”という、決して近い間柄ではなく、特定もできないが、実在することがかすかに感じられる人が体験したものとして語られる、起承転結が見事に流れる話」(p4)

「死体洗いのバイト」や「ミミズバーガー」、「サンタクロースは某清涼飲料会社の広告」などどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。
著者はこの都市伝説に対し「ディバンカー(偽りを暴く役割の人間。”信じる人”ビリーバーの対義語)」という立場をとりながらも、その都市伝説を「科学的に」「論理的に」否定するのではなく、あくまで都市伝説を羅列、説明しながら「モチーフ 」に言及するというスタンスをとっています。
例えば、「トラディショナル都市伝説」と著者が分類する、「遊園地の人さらい」というお話。遊園地で一人でトイレに行った子供が人さらいにさらわれかける(あるいはさらわれてしまう)という都市伝説なのですが、これは、噂が伝わる地域によって遊園地の名前が変わったり、「消えた花嫁」などの派生バージョンに枝分かれしていきます。
アメリカで生まれた都市伝説が日本人向けにカスタマイズされたり、「オチ」が変化したりと、「物語」の伝播や変形の課程を知ることができて非常に面白かったです。例えばアメリカでは「連続殺人犯」など物理的な恐怖をあおり噂を伝達させるのに対し、日本では「余韻」が残るオチになるなど、まるでウイルスがその土地の風土にあわせ変異するように変貌を遂げていきます。
都市伝説において、発生後に後追いでそれに類する事件が起きた場合、”事実と虚偽の時系列の無視”が発生しその都市伝説が事実を飲み込んでしまうことで「事実化」してしまう、という考察には唸らされましたし、大企業やハイテク技術にまつわる人々の「不安」をも取り込んで都市伝説が生まれていくという事象など、一つ一つのお話の発生経緯や派生そのものが非常にスリリングで、まさに一つの「物語」を観ているようでした。
「都市伝説」好きの方(フジモリ含む)は満足できると思いますし、「物語の成立」や「伝承」に興味がある人にも非常に勉強になる本だと思います。
個人的には今年読んだ本の中で五指に入る、非常に大満足の一冊でした。