『紅はくれなゐ』(鷹羽知/電撃文庫)

紅はくれなゐ (電撃文庫)

紅はくれなゐ (電撃文庫)

 吉原を舞台に”紅”という花魁を主人公にしたライトノベルです。吉原といっても史実そのままの吉原ではなく、独立都市としての性格が強調されたり異人さんがたくさんいたりと妙な設定が付加されています。なので独特の世界観があります。見た目に釣られて興味半分で読んでみましたが、まあ微妙ですね(苦笑)。
 イラストによって紅という花魁の姿が華麗に描かれていて、それはライトノベルであるが故に得している部分だと思います。ただ、イラストだけでなく文章の方でも、色彩と色気の両方の意味で、もう少し色を出して欲しかったななぁというのはあります。
 例えば第一幕では花魁の道中が主題となっていますが、物語の展開として途中で邪魔が入るのはまあ良いのですが、それにしても道中はもっと壮麗に描いて欲しかったです。あと、せっかく花魁を主人公にしたのですから、やはりお色気シーンはそれなりにないと(笑)。いや、露骨に描くのはこの場合ご法度だと思いますが、無粋にならないよう仄めかしで構わないので、それとなく描いて欲しかったです。そうした描写が足りないので、花魁が主人公だという気が読んでて正直あまりしません。
 これは何も花魁に限ったことではなくて、吉原の中で暮らす人々の描写が決定的に不足しています。これが時代小説とかですと、短編形式を積み重ねることで人物造形だけでなくその時代に生きる人々の姿も徐々に描き出していくパターンが多いですが、本書もそうした時代小説のひそみに倣う必要があったのではないかと。というのも、吉原に生きる庶民の生活が描かれていないため、クライマックスにおける紅のセリフががまったく説得力のないものになってしまっているのです。
 結局、吉原とか花魁とかではなくて、紅という一人の女性を描くことが主眼となっているわけで、情念の赤、血の赤、炎の赤といったような紅のイメージというものは一貫しています。周囲の人物たちも紅を中心にして配置されていますので、そうしたプロットを読み解く面白さはあります。共感できる点とできない点とを含めて。
 バトルもの、もしくは独立都市と州との間での策謀ものとしての面白さはそれなりにあります。ただ、私としては、今どきの若者*1遊郭というものを果たしてどのように描いているのかに興味があったのは確かですし、やっぱり吉原や遊郭とか花魁とかをもう少し描いて欲しかったです。いや、別に史実どおりのものを描けという意味ではなくてですね、そういったものから想像される色艶や男女の機微とかが読みたかったです。なので、少々残念な気持ちの残る一冊でした。
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*1:オビによれば、作者は17歳の女子高生。