『ソードアート・オンライン〈1〉アインクラッド』(川原礫/電撃文庫)

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

 完全ダイブによって接続された仮想世界・次世代MMOソードアート・オンライン(SAO)』。しかしながらその実態は、クリアするまで脱出不可能なデスゲームだった。現実世界に帰還するため命がけのゲームに挑戦するキリトとその仲間たちの冒険。それが本書の物語です。
 巻末のあとがきによれば、本作はもともと2002年の電撃ゲーム小説大賞に応募するために書いたものの規定枚数内に収めることができなかったためオンライン小説として公開されていたものだそうです。それが、『アクセル・ワールド』で第15回電撃小説大賞で大賞を受賞したことをきっかけに本作も文庫として刊行することになった次第とのことです*1。私は本作のオンライン版を読んだことはないですが、とりあえずシリーズ1冊目の本書を読んだ限りではなかなか面白かったです。
 「ネットゲームって、仮想世界ってなんだろう」(本書あとがきp351より)というのが作者の創作テーマだとのことですが、本作『SAO』も『アクセル・ワールド』も共にネットゲームが題材になっています。ファンタジーという観点から両者を比較すると、図らずも仮想世界の中で生活をすることになる『SAO』はハイ・ファンタジーである一方、ネットと現実を自由に往来しつつ現実世界においても『加速』現象を体感することができる『アクセル・ワールド』はローファンタジーと捉えることができます(参考:ハイ・ファンタジー - Wikipedia)。
 美味しいものは食べたいけどトイレには行きたくない。命がけの冒険はしたいけど死にたくはない。仮想世界が叶えてくれる設定という名の非現実的な法則。それは現実(リアル)と現実感(リアリティ)の違いといえるでしょう。「仮想世界とは何か?」という問いかけは、「現実とは何か?」という問いかけの裏返しでもあります。
 本書の面白いところは、1巻にしてシリーズにおける導入部的役割を超えたストーリー展開が用意されている点にあります。モンスターを倒して経験値を積んでレベルを上げてスキルを習得する。迷宮を探索してマッピングしてアイテムを発見する。そして、各階層にいるボスキャラを倒してさらなる上の階層を目指すという定型的ゲームシステムのクリアを目指すキリトたち。ネットゲームならではの人間模様も絡みながら、主人公キリトはキャラクターとしてもプレイヤーとしても成長しつつ、最後には一大バトルが待ち受けています。そんなわけで本書1冊で物語としてはきちんとまとまっているのですが、だからこそ、これに続きがあるというのが面白いです。正直いって本書1冊だけで終わりだとしたら佳品の域を出ないでしょう。本書を踏まえた上で、次巻以降、果たしてどのような世界へと読者を導いてくれるのか非常に気になる一冊です。