『四隅の魔 死相学探偵2』(三津田信三/角川ホラー文庫)

 本書の主題は〈四隅の間〉という儀式です。正方形の部屋の四隅ABCDに、目隠しをした人物を、Aには二人、他の隅には一人ずつ配置します。そして、A地点にいる一人が壁伝いに移動してB地点にいる人物にタッチ。そしたらB地点にいた人物がC地点に移動してタッチして、CからD、DからA、AからB……。と、部屋の四隅を中継点とした5人の円環運動が延々と繰り返されることになります。その途中で、予め決められていた人物が円環運動から離脱したとしたら、普通に考えれば円環運動はそこで途切れるはずです。しかしなぜか円環運動は延々と続いて……。というのが、〈四隅の間〉が儀式とされている所以です。この〈四隅の間〉は〈ローシュタインの回廊〉と呼ばれるイギリスの貴族の実験が元ネタとされており、また似たような日本の怪談として〈雪山の遭難〉あるいは都市伝説として〈スクエア〉が知られています(参考:スクエア (都市伝説) - Wikipedia)。そんな〈四隅の間〉が、とある大学内の趣味の集まり・百怪倶楽部で行なわれるのですが、儀式に参加していた学生の一人が突然死を遂げてしまいます。〈四隅の間〉の儀式が何かを召喚してしまったのか? 探偵事務所に相談にきた学生に死相を視た弦矢俊一郎は、死の連鎖を食い止めるための調査を開始します。
 前作をお読みの方ならご存知でしょうが、本シリーズは霊、あるいは呪術といった超自然的な現象が存在するという前提があります。実際、前作はそうした現象についての真相を突き止めるというSFミステリ的な味わいが主眼になっていました。ところが本作の場合には、連続する学生の死について、そうした現象が原因である可能性は否定されないものの、まずは合理的な解釈、普通の犯罪としての調査を優先します。ホラーとミステリの融合が三津田信三という作家の持ち味ですが、本作ではホラー的な怪奇趣味を土台としつつ、その上にミステリ的な合理主義の解釈が築き上げられていくという展開になっています。その意味で、昔ながらの古風なミステリに似た読後感がありますが、実に細かい部分に張り巡らされている伏線とそのの回収は偏執的とも思えるほどで呆れるような楽しいような気分が味わえます。いかにも三津田作品らしいです(笑)。
 とはいえ、すべてがすべて合理主義によって解決されるわけではありません。推理の基盤には死相を視る「死視」という能力がありますし、その真相にも霊の存在が少なからず見て取れます。なので、何もかもが合理的なものとして落とし込まれているわけではありません。合理的思考で解決できるものは解決する一方で、残された部分については超自然的な現象に原因を求めて解決するという、実にいいどこ取りの解決となっています。それというのも、主人公の弦矢俊一郎の成長が大きいです。前作では人間としても探偵としても未熟で不安定だったものが、本作では格段の進歩を遂げています。なので、事件の調査と解決にも安定感があります。ホラー混じりのミステリの割にはあまりにも安定感があり過ぎてこじんまりとした印象を受けないでもないのですが、『四隅の魔』だけに隅々まで配慮が行き届いた端整な佳品として楽しめました。
 シリーズものとしての展開は読めないのですが、次作も楽しみにしたいと思います。
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