『ロウきゅーぶ!』(蒼山サグ/電撃文庫)

ロウきゅーぶ! (電撃文庫)

ロウきゅーぶ! (電撃文庫)

 まったく、小学生って最高だな。
(本書p252より)

 第15回電撃小説大賞銀賞受賞作。
 スポーツもので小学生を主人公とすることに意味があるのは確かです。主人公たちのチームが勝利を目指して様々な苦難を乗り越えるのが面白いわけですが、だからといって、経験者ばかりでチームを固めてしまうと、そのスポーツについて詳しくない読者にとって敷居の高いものになってしまいます。
 ということで、スポーツものの場合には未経験者が少しずつ上達して上のレベルを目指していくという展開が採用されがちです。そして、多くの場合には読者の対象年齢に合わせて中学生や高校生が主人公を務めることになるわけですが、現実には中学生や高校生といったら経験者の壁が厚くて、素人が急に活躍できるようなことは滅多にありません。
 その点、例えば佐々原史緒『暴風ガールズファイト』の場合には、ラクロスというどちらかといえばマイナーで高校生から始めてもおかしくないスポーツを題材にすることでそうした点をクリアしていましたが、バスケというメジャーなスポーツの場合だとその展開だと無理が生じてくるのは否めません(それに、なんといっても『スラムダンク』という偉大すぎる先達がありますからね)。
 その点、小学生のチームにしてしまえば、初心者と経験者の差もかなり縮めることができますし、一方で著しく上達していく姿を自然に描くこともできます。となると、コートメンバーが5人と比較的少人数のバスケはメンバーの書き分けの苦労も少なくてすみますし、体格によって才能やチーム内の役割が決められていくといった点もキャラクタの性格付けという意味でやり易い面があると思います。
 しかし、だからといって小学生の女の子がバスケをするという作品に真正面から取り組み、このご時世にロリコンというキーワードを堂々と作中に持ち出し、さらには表紙絵や口絵や挿絵といったイラストも全面的に女の子押しでパッケージしていく電撃文庫のやり方には、あざとさを通り越して清々しさを感じるくらいです(笑)。とはいうものの、そうしたことができるのも、本書の内容がスポ根ものとしてシッカリとしているからこそです。安直に精神論に走るのではなく、心・技・体の三要素をきちんと踏まえた上で、相手の力量と自分たちのそれとを秤にかけて、チームワークによって勝利を手にしようとする姿勢からは、バスケというスポーツの魅力が衒いなく伝わってきます。
 主人公の高校生・昴が本来はプレイヤーでありながら諸事情(自分の所属するバスケ部が部長のロリコン騒動によって一年休部)によって監督役に徹しているという設定によってチーム全体を俯瞰する安定した視点が得られているのも特徴だといえるでしょう。
 ただ、作中にちょっと疑問な点もあります。本書は基本的に昴の一人称視点で語られるのですが、合い間にチームのメンバーの交換日記(SNS)での会話が挟まれています。その会話が、一部ではありますが、ネット上のやりとりで使用するのは不自然な、まるで面と向って会話しているかのような表現があるのが気になりました。例えば、『なっ……!』とか動揺を伝えるつもりで打鍵したとしても、そんな表現ができるのであれば割りと冷静になっちゃってるものだと思うのです。それとも、今時の若い人たちの間だと普通の表現なのでしょうか? 謎です(笑)。
 とはいえ、いくら中身は真っ当なスポ根ものだといっても、このイラストには引いてしまう人がいてもおかしくないと思いますし、「そこを何とか」といえるほどのオススメはできませんが(笑)、スポ根ものが好きな方には他意なくオススメしておきます。
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