『パララバ―Parallel lovers 』(静月遠火/電撃文庫)

パララバ―Parallel lovers (電撃文庫)

パララバ―Parallel lovers (電撃文庫)

 第15回電撃小説大賞金賞受賞作。
 平凡な高校生活を過ごしていた遠野綾。そんな彼女の楽しみは、部活で知り合った他校の男子生徒、村瀬一哉との携帯電話を通じての会話。会話を重ねる内に二人は互いのことを意識し合うようになります。しかし、夏休みの終わりに一哉は事故死してしまいます。失意に暮れる彼女の元にかかってきた一本の電話。それは死んだはずの一哉からのもので……。
 あとがきやインタビューによれば『タイムリープ』(高畑京一郎電撃文庫)の影響を強く受けて執筆を始めたということが書かれていて、本書についても言われてみれば、というところが確かにあったりしますが、しかしながら、私が本書を読みながら連想していたのは『きみにしか聞こえない』乙一角川スニーカー文庫)所収の短編「Calling You」でした。とはいえ、読み終わってみれば、確かに読後感には多少相通じるものがあるものの、本書は本書以外の何物でもありませんでした。なので、あまりモチーフとかに拘った視点で本書を評価するのは不本意な反面、そうしたお話が好きな方であれば、本書を楽しめる可能性は高いということはいえるでしょう。
 思えば、携帯電話が普及する以前は、恋人同士が連絡を取るとすれば家族共有の固定電話によるしかなくて、そうなるとその関係を完全に秘密にすることは難しいわけで、ある程度はその関係というものが周囲に認識される、あるいはされざるを得ませんでした。
 ですが、携帯電話が普及した今となっては、二人だけで会話し、二人だけの関係を作ることが容易にできるようになりました。携帯電話がつながる・つながらないといった一見すると些細な事柄が非常に大きな役割を担っているのも、いかにも今風な印象を受けます。そんなコミュニケーションの利便性の進歩を実感できる反面、その関係性が失われてしまったときに、その喪失感を理解してくれる第三者が周囲に誰もいないという事態もまた起こり得ます。小さいものではあるかもしれないけれど大切な、誰にも知られていない世界がそこかしこに生まれては消えていく時代を反映した物語だといえるでしょう。
 一哉が死んだ世界と綾が死んだ世界。タイトルの通りにパラレルな恋人たちの物語は、二人の世界がパラレルになってしまった時点、いわゆる”ゼロ時間”において一体何があったのかを探り当てるミステリの形式で進められていきます。ミステリとは、普通は探偵のための物語であり、裏を返せば犯人あっての物語ではありますが、一方で死者のための物語という側面があることも忘れるわけにはいきません。
 本書はすれちがってしまった生者同士が互いに死者のために思いを馳せる物語です。そこでは、普通のミステリにおいて金科玉条とされる論理性とかサプライズとかはあまり意味を持ちません。なので、肩透かしに思われる読者もいるかもしれませんが、一度平行になってしまった世界を重ね合わせること、すなわち、死んでしまった人間を生き返らせることはできません。当たり前のことではありますが、その当たり前のことを確認するためにわざわざ理屈と物語が必要で、だからこそミステリが書かれ読み継がれていくのだと思います。本書は、そんな死者のためでもあり生者のためでもある物語です。
 まあ、ミステリ読みとしての素直な気持ちを白状しますと、論理性や意外性に未練が残る気持ちは否めませんが(笑)、ケレン味こそないものの余韻の残る物語としてひっそりとオススメするにはやぶさかではない一冊です。
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