『チョコレートビースト―インディゴの夜』(加藤実秋/創元推理文庫)

チョコレートビースト―インディゴの夜 (創元推理文庫)

チョコレートビースト―インディゴの夜 (創元推理文庫)

 本書は〈Club indigo〉シリーズの第2弾に当たりますが、ミステリ色はほとんど影を潜めてしまっています。それはまあ前作からの流れとしても十分に予想できたことなので取り立てて騒ぐようなことではないのですが、ホスト探偵団というせっかくの設定まで影が薄いものになっていたのは少々意外でした。いや、本書がつまらないのかといえば決してそんなことはなくて、夜の渋谷というアングラの側面をスタイリッシュな文体で軽妙に描くというスタイルは前作と同様で堅実な面白さはあります。
 ただ、本書は4作ともにゲストキャラが持ち込んだトラブルを解決するというパターン*1でして、そうなると必然的に既存のキャラに日の目が当たることなく事件が解決してしまうのです。まあ、そういうのも微妙な人間関係で成り立っているホストクラブらしいといえばらしいのですが、踏み込まないから成立している関係と、ある程度踏み込みつつも適度なところで踏み込むのをやめることで成り立っている関係とではやはり違いますよね。冒険すると崩れてしまう恐れがあるのは確かですが、もう少し危険な感じが欲しかったように思うのは、ないものねだりの贅沢というものでしょうか?

返報者

 空也のClub〈エルドラド〉で働く一人のホスト・樹に関わったホストが狙われる傷害事件の調査を依頼された晶。作中で”妄想推理”という言葉が出てくるところからしてミステリに付き物の論理的思考が潔いくらいに放棄されてしまっています(笑)。

マイノリティ/マジョリティ

 晶の表の顔であるフリーライターと、塩谷の表の顔である大手出版社の編集者として関わりあったトラブル。表の顔に裏の付き合いのホストたちがあっさり付き合うのはどうかと思いますが(笑)、このノリの良さがホスト探偵団らしいといえばらしいといえますか。

チョコレートビースト

 なぎさママの店に押し入った強盗に対して晶が投げつけてしまったのは、こともあろうに”四十三万円”ことママが溺愛している犬のまりんが入ったバッグだった。犬探しの手がかりは犯人がしていたタトゥー。タトゥーに詳しいホストを通じて晶は犯人を突き止めていきますが、暗号読解ものとしての面白さはほとんどないのであしからず。

真夜中のダーリン

 心臓に持病を抱えるホスト・吉田吉男が生きる上での目標に選んだのがホスト・コンテスト。普通にいいお話なので、ミステリとしての面白さ云々なんてどうでもいいじゃないですか(苦笑)。
【関連】『インディゴの夜』(加藤実秋/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

*1:ただし4作目は微妙ですが。