私家版2008年海外ミステリ ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2008年のベスト海外ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版ですので、刊行年数などにかかわらず私が2008年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

ロジャー・マーガトロイドのしわざ

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

 古典ミステリですが新本格みたいな問題意識(ユーモア感覚)に溢れています。人工的な構成とお洒落な雰囲気が楽しい本格好きにはオススメの一冊です。
【関連】『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』(ギルバート・アデア/ハヤカワ・ポケット・ミステリ) - 三軒茶屋 別館

検視審問―インクエス

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

検死審問―インクエスト (創元推理文庫)

 検視審問、という単語の響きとは裏腹の自由奔放な検視官のしきりが楽しくて、それでいて明らかになる事件の真相には意外性がきちんと用意されています。
【関連】『検死審問―インクエスト』(パーシヴァル・ワイルド/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

ナポレオンの剃刀の冒険

ナポレオンの剃刀の冒険―聴取者への挑戦〈1〉 (論創海外ミステリ)

ナポレオンの剃刀の冒険―聴取者への挑戦〈1〉 (論創海外ミステリ)

 クイーンのラジオドラマが収録された一冊です。シンプルながらも捻りの利いた構成はさすがとしかいいようがありません。2冊目の刊行に期待します。
【関連】『ナポレオンの剃刀の冒険』(エラリー・クイーン/論創社) - 三軒茶屋 別館

国境の少女

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 自分のことも他人事のように語る独特の一人称描写には良質なハードボイルドの面白さがあります。アイルランドという地域性が活かされたストーリーにも新味が感じられて良かったです。
【関連】『国境の少女』(ブライアン・マギロウェイ/ハヤカワ文庫) - 三軒茶屋 別館

ボルヘスと不死のオランウータン

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)

 ボルヘスが探偵役でポーとかクトゥルフとかの衒学趣味がコンパクトな長さにまとめられています。奇抜なロジカルが楽しい一品です。
【関連】『ボルヘスと不死のオランウータン』(L・F・ヴェリッシモ/扶桑社ミステリー) - 三軒茶屋 別館

カリブ諸島の手がかり

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

 ポジオリ教授シリーズ1冊目が文庫化されました。”探偵”という存在にシニカルに鋭く切り込んだ快作です。
【関連】『カリブ諸島の手がかり』(T・S・ストリブリング/河出文庫) - 三軒茶屋 別館

時間割

時間割 (河出文庫)

時間割 (河出文庫)

 カノンによる主題の重層的な構成は、原文ならもう少しリズミカルに楽しめるのかもしれません。そのメタ的な構造ばかりが際立ってるためミステリとして紹介されることはあまりないみたいですが、ミステリ読みにも興味深い一冊じゃないかと思います。
【関連】『時間割』(ミシェル・ビュトール/河出文庫) - 三軒茶屋 別館

ウォリス家の殺人

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

 ディヴァインの安定感は流石です。本作でも、陰鬱な人間関係のなかに意外性のある真相を隠し通す見事な手腕が発揮されています。
【関連】『ウォリス家の殺人』(D・M・ディヴァイン/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

チャイルド44

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

 旧ソ連を舞台にした連続猟奇殺人事件を国家権力に逆らいながら解決しようとする刑事の苦闘と家族愛が描かれたサスペンスの傑作です。本書の他にも、同じく旧ソ連を舞台にした『ゴーリキー・パーク』の復刊に、架空の東欧の小国が舞台のシリーズ2作目『極限捜査』など、今年は非民主主義国家を舞台としたミステリに収穫が多い1年だったと思います。
【関連】
『チャイルド44』(トム・ロブ・スミス/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館
ミステリと民主主義 - 三軒茶屋 別館

ケンブリッジ大学の殺人

ケンブリッジ大学の殺人 (扶桑社ミステリー タ 9-1)

ケンブリッジ大学の殺人 (扶桑社ミステリー タ 9-1)

 大学という舞台に相応しくアカデミックな雰囲気のなかで繰り広げられる論理遊戯は、いかにも本格という楽しさに満ち溢れています。
【関連】『ケンブリッジ大学の殺人』(グリン・ダニエル/扶桑社ミステリー) - 三軒茶屋 別館


 古典の復刊ばかりが目に付きますが(私の感性が古いせいかもしれませんが)、その中にあってやはり『チャイルド44』の存在が一際目立っています。”テロとの戦い”という踏み絵が、国家と個人の関係を問い直す動きにつながっているように思います。こうした傾向は今後も続いていくものと、半ば期待を込めて無責任に予想しておきます(笑)。