西尾維新『きみとぼくが壊した世界』講談社ノベルス

きみとぼくが壊した世界 (講談社ノベルス)

きみとぼくが壊した世界 (講談社ノベルス)

西尾維新「世界」シリーズ第3弾です。
以下、初手からネタバレ全開なのでこれからこの本を読もうとする人はご注意ください。
 『きみとぼくの壊れた世界』『不気味で素朴な囲われた世界』の2作で日常本格ならぬ「異常な日常」本格を描いてきたこのシリーズですが、今作は一転して「日常」を描いています。
 とはいうものの既読者の方はご存知だとは思いますが、「日常」そのものは「作中作」であるという、「夢オチ」ならぬ「小説オチ」です。裏表紙や内容紹介にある

奇妙な相談を受け、シャーロック・ホームズが愛した街・ロンドンへと誘われた病院坂黒猫と櫃内様刻。
次々と巻き起こる事件の謎解き合戦が始まった!
これぞ世界に囲われた「きみとぼく」のための本格ミステリ!

 なんかはギリギリセーフって感じですよね(笑)。誘われてはいますがロンドンに行ってないですから。
 作中でも言及していますが、「作中作」という言わば古くから伝わる手法で物語は進んでいきますが、興味深かったのは「作中作の中に必ず「嘘」が1つ以上入っていること」でした。
 第二章で、読者は「第一章が現実であること」「僧侶が死んだこと」が「嘘」であることを知り、第三章では「第二章を書いたのが櫃内様刻であること」「作者の妻が殺されたこと」が「嘘」であることを知ります。そして、第四章では「病院坂黒猫の同行者が櫃内様刻ではなく串中弔士であること」「エージェントが殺されたこと」が「嘘」であることを知る。「嘘」によってそれまで「現実」だと思っていた「世界」ががらっと入れ替わり、読者は被騙によるある種の「快感」を得ます。
 ここで読者も慣れてくるので、「病院坂黒猫が殺される」という衝撃的な展開を迎える第四章も「作中作」ではないか?と予想し、第五章でその予想が正しかったと知ります。
 そしてエピローグでは「二人のロンドン旅行」そのものが「嘘」であったと知り、またも大きな「世界の転換」を体感します。
 裏表紙に「謎解き合戦」と書いてある通り、謎と解決の積み重ねによる「小品集」ですが、『ネコソギロジカル』あとがきで「というのは嘘でみんな死にました。」(p372)と書いているように、小説に書かれている「世界」は「言葉一つ」で容易にひっくり返る、まさに「壊れる」ものだということを痛感した一冊でした。
 もちろん、西尾維新作品おなじみの「個性的な言い回しや発想」「ぶっ飛んだキャラクタ(ネーミングセンス含む)」というのも健在で、

「昔、上から目線の褒め言葉シリーズと言うのを考えたことがある」
「聞いてみたいな」
(中略)
「『へえ、この人また新刊出したんだ。よし、どれくらい成長したか、今度暇なときにでも、読んでおいてやるか』」
「まだ読んでいないんだね!」(p67)

 なんかは非常に面白かったですし、「ライトノベルとミステリーの関係」については別記事を上げたくなるぐらい思考を刺激されました。
 個人的には「世界」シリーズはミステリーとしても非常に良く出来ていると思っており(トリックではなく、「殺人」そのものを取り巻く「異常な日常」について、ですが)、続巻として予定されている『不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界』『ぼくの世界』も楽しみにしています。
(参考:wikipedia 西尾維新