『まごころを、君に THANATOS』(汀こるもの/講談社ノベルス)
- 作者: 汀こるもの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/09
- メディア: 新書
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何が一番問題かといえば、前作で見られたようなミステリに対する挑発的な態度・批評的な精神というものが本書ではすっかり影を潜めてしまっているということです。これではいったい何を楽しみにして本書を手に取ったのかまったく分かりません。
まあ、それならそれとして、普通のミステリとして面白いものであれば楽しみようがあるのですが、これがまた微妙な出来栄えです。全281ページであるにもかかわらず、事件が発生して物語がミステリとして動き出すのは149ページからというのは、ミステリ読みとしては正直かなりきついです。それまでに延々と語られるグッピーと水槽の薀蓄に果たしてあなたは耐えることができますか? 私は撤退寸前でした。いやはや何とも……。もちろん、そうした薀蓄が無意味なわけではありません。水槽の仕組みはトリックの種明かしにもつながっていますし、グッピーのついての説明は動機の遠景になっています。なので決して無意味ということはありませんが、でもねぇ……。
前回とは異なり、今回は双子の日常的な生活のなかで起きる事件です。事件自体にも二人の存在は少なからず因果関係があります。それもまたマイナスポイントです。それだとTHANATOSといったシリーズものとしてのキャラ付けの意味がないと思うんですけどね。
それでいていざ解決となっても、犯人は見え見えで意外性のかけらもないですし、トリックも特に目新しいものではありません。また、それを導き出すための推理にもロジックの面白さとか魅力とかそういったものがまったく欠けています。何だかなぁ……。
それでも、読みどころがないわけではありません。グッピーになぞらえて語られる犯人が抱えることとなった事情や動機にはそれなりの迫力があります。死(THANATOS)によって結ばれる犯人と探偵の物語ということで考えますと、本書は犯人役に重点が置かれたミステリということになるのかもしれません。シェイクスピアも、そうした奇妙な犯行動機に説得力を持たせるための道具としてそれなりに上手く使われているとは思います。
とはいえ、シリーズものとしての期待が裏切られた感は否めません。あんまりオススメはできませんし、続きが仮に出るとして、私がそれを手に取るかどうかはかなり微妙な気分です。
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