テレビドラマ『ハチワンダイバー』第2話感想

 今回は第1話で「ハチワンダイバー」と名乗った都合上、原作と比べてストーリーが多少前後してしまいましたが、ハチワンこと菅田が真剣師としての稼ぎ方を覚えて、その後そよから質入した駒を返してもらうために賭場でマムシと戦うお話でした。
 そよとの目隠し将棋が普通の将棋に変更されてたのは残念でした。将棋指しの(無駄な)スペックを表現する格好の場面だと思ったのに(泣)。ただでさえ盤面を省略気味なのにこの上棋譜記号だけのシーンなんか入れても一般人は置いてけぼりという判断なのでしょうが正直ガッカリです。
 「ダイブ」を必殺技と称しているのにゲンナリ。将棋に必殺技なんてねーよ(笑)。いや、その方が一般人受けするという判断なのでしょうが、仮にも元奨が最初から序盤を捨てて逆転勝ちなんて狙っちゃ駄目だって(笑)。とかいいながら、「ダイブ」という感覚が実際に将棋を指しているときの心理状態の巧みな比喩であることも間違いないので、ドラマ的にこだわりたくなる気持ちも分からなくはないです。私みたいなヘボアマがこんなこと言うのもおこがましいですが、将棋に集中すると指し手のことしか考えられなくなるときがあります。その境地になるとホントに手が見えてきて、いつまでも考えていたくなるのですが、一方で、ほどほどで浮かんでこないと時間切れで負けになっちゃいます。有利不利を問わず勝負どころでの読みとして「ダイブ」というものを理解してもらえればと思います。
 将棋というのは相手あってのものではありますが、最初から最後まで緩みのない完璧な指し回しで勝つのが理想です。ましてや元奨がアマを相手に指すとなれば尚更です。その意味で、真剣師として稼ぐために菅田が泣く泣くわざと負けたりギリギリで勝ったりして「稼ぎ」を得た、全然真剣じゃない真剣師としての将棋は、まさに「自分の将棋」を捨てたことと同義です。ドラマの方は逆転勝ちを演出するために「ダイブ」にこだわっているのですが、原作の方ではこうした真剣でわざと自分を不利な状況に追い込む指し方から逆転勝ちのコツをつかむ流れになっています*1
 菅田対マムシ戦は、菅田の石田流三間飛車に対してマムシは棒金戦法を選択しました。棒金というのは飛車先から金を棒のように真っ直ぐ動かしていく戦法のことです。普通は銀を動かす棒銀戦法の方がメジャーです。金は銀よりも動ける箇所の多い優秀な駒ではありますが、その真価は守備において発揮されます。なので、価値の高い駒ゆえに捨て駒としては活用しづらく、自陣も薄くなってしまいます。また斜め後ろに引けないので攻め駒としては重くて本来は棋理に反した指し方です。ただ、石田流のように相手の飛車が前面にあり、かつ、飛車角が近い位置にいる場合には棒金は極めて有力な戦法です*2。棒金の狙いは金の圧力による押さえ込みです。相手の飛車角の活用を抑え、じわじわと圧力をかけて最終的に飛車なり角なりと交換することができたら大成功です。一気によくするのではなく、堅実にポイントを上げていくことを目指すのがこの戦法の骨子です。相手をじわじわと絞め殺すとされるテレビ版のマムシの異名に相応しい戦法だといえるでしょう。
第1図

 第1図は菅田がダイブする直前の盤面図です。棒金独特の金による押さえ込みに銀の援軍*3まできてまさに飲み込まれてしまいそうな局面です。ただ、棒金戦法は守りが薄くなってしまうというデメリットもありますので、菅田としては多少駒損してでも飛車なり角なりを活用させる(=さばく)ことができれば局面を互角以上にすることができます。
 ダイブの後、菅田は桂馬を見捨てて飛車角を軽妙にさばくことで局面を有利に進めていきます。そして進んで第2図。
第2図

 マムシはここで△3四銀として桂馬を取りました。しかしそこで「桂馬は囮だ」と▲3六桂。角当たりで攻めの拠点として働く好位置に桂馬を置いたこの手が事実上の決め手となり菅田は勝利を手にすることができました。
 ちなみに、この将棋にはモデルとなった実戦譜が存在する模様です。
【参考】棋譜でーたべーす:鈴木大介×丸山忠久(1999年全日本プロ将棋トーナメント)
 ドラマで興味を持った方はぜひ並べてみてはいかがでしょうか。
 この後、菅田が逮捕されちゃうのはさすがに予想外の展開でした。もっとも、賭け将棋は明らかな犯罪なわけですからこうなったって何の不思議ではありません。まあ、菅田自身は何も知らされないまま将棋を指しただけなので釈放されるのもまた当然なわけですが、よい子のみんなはくれぐれも気をつけましょうね(笑)。
 さて、次回はいよいよ二こ神戦です。原作でも話題になった”あるもの”を賭けた漢と漢の戦いです*4。どんな風になるのか、今からとても楽しみです(笑)。



【感想】 第1話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話

*1:ここの流れは原作もちょっと分かりにくいかもしれませんが。

*2:というより、対石田流専用の戦法といってよいでしょう。

*3:一見ただで取れそうな銀ですが、▲同歩と取ってしまうと△8八角成とされて角をただで取られてしまいます。

*4:今週号の『週刊将棋』であらすじを確認したので間違いありません。