第18回世界コンピュータ将棋選手権関連の私的まとめ

 こういうのはまとめておくと後で(主に私にとって)便利なので私的収集メモとして。
(以下、長々と。)


将棋ソフトがトップアマに連勝

 2008年5月3日から5日まで行われた将棋ソフトの大会は優勝『激指』、準優勝『棚瀬将棋』という結果に終わった。
第18回世界コンピュータ将棋選手権 ライブ中継
 その後、エキシビジョンとしてトップアマ(現役アマタイトル保持者)2名と優勝・準優勝ソフトの対局が組まれた(持ち時間15分。切れたら30秒。棋譜については上記リンク先のエキシビジョンを参照)。結果、ソフトが2連勝。

メディアの反応

http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20080505-OYT1T00432.htm[↑B]

 プロレベルの実力を持つ現役アマタイトル保持者がコンピューターに敗れるのは初。

http://www.asahi.com/science/update/0505/TKY200805050175.html[↑B]

 コンピュータ将棋協会の滝沢武信会長は「予想外の結果。これまで勝てなかったアマトップに勝てたことは歴史的なこと」と驚いた様子。加藤さんは「完敗です。清水上さんもがっぷり四つで負けた。コンピューターが強くなった」と話した。

NIKKEI NET(日経ネット):将棋ソフト、アマ名人倒す

 対局を観戦したプロ棋士勝又清和六段は「清水上さんは最近プロ八段にも勝っている実力者。将棋ソフトはソフトだけでなくハードウエアの改良で格段に強くなっている」と「激指」の実力を評価した。

プロ棋士の反応

コンピュータ選手権の結果。 - 渡辺明ブログ[↑B]

アマトップの方々は奨励会で言えばプロ手前の二段〜三段の力はあるので、そこに2連勝というのは衝撃的。
まぐれということもあるのでなんとも言えませんが、来年も同じような結果になれば、次はプロが出て行くしかありません。
僕が再び戦う日も遠くないかも(笑)って笑い事じゃないです。

衝撃 - daichanの小部屋

いまや1番勝負なら自分が負けてもそんなに驚きはしませんが、二人そろって完敗したと聞いて衝撃を受けました。彼らの強さは僕もよく知ってますので。。

大きな話題と小さな話題: 遠山雄亮のファニースペース

この二人はアマチュアの方の中でもトップ、しかもトップの中のトップですから衝撃的です。将棋も強い内容でした。

明日対局 瀬川晶司のシャララ日記/ウェブリブログ

プロと遜色無い実力の二人なので驚きました。ただ将棋は一発が入りやすいゲームなので、やっていればこういうことも当然あります。これでアマトップを超えたということにはならないと思いますが、またプロ対コンピューター戦が盛り上がりそうです。



(幕間)
 コンピュータ将棋の進歩はかねてから周知の事実でしたので、今回のソフト2勝という結果自体は来るべきときがきただけと捉えるべきなのでしょうが、意外にショックだったのは告白しておきます。
 ただ、今回の結果を受けて直ちにソフトがアマトップを超えたと判断するのはやはり早計に過ぎるでしょう。今回の結果はラッキーではない本物のパンチが入ったものと考えてよいと思いますが、持ち時間15分で切れたら30秒という早指しの条件はソフトにとって有利(というより人間にとって不利)であることは否めません。次回以降、対等の相手としての条件や環境を整えた上で、それでもなおこのような結果が出たとしたら、そのときは次のステップへ以降することを考える必要があるでしょう。これによってソフトとトップアマの戦いの真剣度が遥かに増したということは確実にいえますし、注目度もますます高まることでしょう。
 なお、付言しておきますと、仮に人間がソフトに勝てなくなったとしても、そのことが将棋を指すことの意義を奪うことにはなりません。将棋というゲームそのものが解明されてしまえば話は別ですが、そうでない限り、将棋の神様の隣に座るための試みは、仮にソフトがその最先端を進むことになったとしても脈々と続けられていくことでしょう。もっとも、少しブレることもまた否めませんが。

プロとアマチュアの差

 2000年1月1日に放映されたNHK新春お好み対局で、羽生善治は当時のトップアマ2人を相手に角落ち二面指しで対局して快勝した。
棋譜でーたべーす:羽生善治(上手)×瀬川晶司(下手)
棋譜でーたべーす:羽生善治(上手)×田尻隆司(下手)
 テレビ将棋という舞台そのものはアマ不利ではあるものの、角落ち・二面指しという状況は圧倒的にアマ有利の条件である。その条件下での羽生の2勝という結果はプロとアマの差のイメージを圧倒的なものとして印象付けることとなった。
 もっとも近年ではアマのレベルの上昇といったものが認められてきている。2001年から2007年までの朝日オープン将棋選手権(参考:Wikipedia)と、2008年に新設された朝日杯将棋オープン戦(参考:Wikipedia)ではトップアマと若手棋士の一斉対局が10番組まれることが恒例となっているが、その結果はプロ7勝・アマ3敗という結果に落ち着くことが多い(2002年にはプロ3勝・アマ7勝という逆転現象まで起きた)。また、他の棋戦でもアマの参加が認められていることがあるが、そこでもA級棋士といった上位の棋士相手にアマが勝利するといったことも度々起こっている。こうしたことから、トップアマの実力は総じて二段から三段(≒プロの一歩手前)に当たると解される。



(幕間)
 ただし、プロ棋士との対局で好成績を挙げ続けた瀬川晶司(現四段)が2005年に特例試験でプロ棋士となり、その後、2006年にはアマチュアからプロへの正式な編入制度が定められました(Wikipedia-プロ編入制度)。これにより強いアマがプロ棋士になることが可能になったわけで、強いアマにはプロになってもらうことでプロの権威を守りつつ、また門戸が開かれたことでアマとプロの距離がそれまでよりも近いものになりました。

プロとコンピュータ将棋の関係

 2005年10月14日に、日本将棋連盟から所属棋士に対して「公の場で許可なく将棋ソフトと対局することを禁じる」旨の通達が出された。
コンピュータ対プロ棋士の対局を制限 - 勝手に将棋トピックス
コンピュータ対プロ棋士の対局を制限(続) - 勝手に将棋トピックス
 その後、2007年3月21日に渡辺明竜王対ボナンザ(第16回世界コンピュータ将棋選手権優勝ソフト)の平手一番勝負の公開対局が実施される。結果は渡辺竜王の勝利に終わったものの内容的にはボナンザ大善戦・竜王辛勝というべきものであった(参考:渡辺明ブログ・ボナンザ戦その1(対局準備)その2(当日編))。
【関連】プチ書評 『ボナンザVS勝負脳』(保木邦仁・渡辺明/角川oneテーマ21)
 このままコンピュータ将棋の進歩が進んでいけば、近い将来にはトッププロすら脅かすようなソフトが開発されること現実の可能性として考えられる。その点について、羽生善治は次のように述べている。

――コンピュータと人間がやると、どうでしょう。
「コンピュータがどれだけ力を伸ばしていくか、ということが大きいと思います。ハードとソフトの両方で伸びていくのはまちがいないけど、それがどのくらいのスピードで、どのくらいのアプローチややり方になるのか。それによってずいぶん違ってくると思います」
――仮に一生懸命やったら?
「一生懸命やったらすごいことになると思いますよ。たとえばスパコンを使うとか、国家プロジェクトのハードを使うとか。そんなことになれば、今でも危ないんじゃないですか」
――コンピュータが人間に勝つということと、将棋がわかるということとは、別のことですよね。
「そうですね。ゲームそのものを解明するのとはまた別の話です。わかりやすい例としてはオセロでしょう。オセロも終わりに向かって可能性が小さくなっていくゲームが、それでも〈8×8〉はまだ解明されていません。今は〈6×6〉まで解明されましたが、〈8×8〉となるとまだ先のことのようです。将棋の〈9×9〉を解明するのはかなり大変です。よほどのことがない限り大丈夫ですが、コンピュータが勝つかどうかとは次元が違う話ですから
 連珠は解明されたし、チェッカーも解明されました。そうしたことは大きな出来事で、すでにそういうものが出てきているということは、受け止めておかなければならないことだと思います」
(『将棋世界 2008年3月号』所収「羽生善治二冠インタビュー」p58〜59より)

【関連】コンピュータ将棋がプロを破る日? - 三軒茶屋 別館



(幕間)
 ソフトとの対局禁止令が出されたのには2つの理由があるものと思われます。1つはイメージの問題です。何しろ、トップアマが2敗しただけで「人間の頭脳、ついに敗れる」などという釣り見出しを朝日に出されちゃうくらいですから、これでプロがうっかり負けたりしたら何を言われるのか分かりません(笑)。ソフトとプロ棋士の対局はこれからも行われていくことでしょうが、万一負けてしまったとき、それを素直に受け止めることができるだけの環境が用意されるのは必要なことだと思います。その意味で日本将棋連盟がコンピュータとの対局に慎重になるのは分かります。
 もう1つはビジネス的な理由です。要はお金になるということですね。それはそうでしょうけれど、あまりもったいぶっていると商品価値がなくなっちゃうかもしれません。理想をいえば、関心が高まったときに戦って勝ち続けるのがベストだと思われます。もちろんプロ側のプレッシャーたるや相当なものになるでしょうが、今回奇しくもこういう事態が生じたことですし、そろそろプロ側が動き出しても面白いんじゃないでしょうか。

 ということで、プロとアマとコンピュータという三者の関係をざっとまとめてみました。今後どのようになっていくのか要注目です。