『暴風ガールズファイト 2』(佐々原史緒/ファミ通文庫)
- 作者: 佐々原史緒,倉藤倖
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2007/12/25
- メディア: 文庫
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前回の続きということでまずはメンバー集め。ってか12のポジションで登録選手20人のスポーツを小説で表現するのって無謀じゃね? といまさらながらに思ったりもしますが(笑)、それはさておき、この巻でようやく最低限の人数が揃いました。新メンバーのキャラの濃さは既存の8人に負けてません。ホラーマニアの留学生に王子様って(笑)。2巻はそんな新メンバーと小坂依奈のターンです。新入りと下級生にスポットがあてられることで”部”としての外枠が見えてくるのが面白いところです。
とはいうものの、基本的にはずっと広海のターンです。メンバーの勧誘、合宿地確保のための交渉、そして特訓。みんなの級長はときに厳しくときに腹黒く(笑)、なんやかんやでメンバーをまとめ上げていきます。本書は約300ページですが、その3分の2が試合に入る前の練習(他、期末テストや肝試しなど)の活動の描写に筆が費やされています。女子校らしくかしましくも厳しい練習風景がいかにも青春スポ根ものらしくてとてもよいです。実際、どんな部活にしろ、本番というのは確かに濃密で特別な時間が流れる空間ではありますが、でも一瞬です。その一瞬のために、いろんなものを犠牲にして臨むわけです。誤解を恐れずにいえば、練習風景こそが部活動のリアルだといっても過言ではないと思います。それに比べると、本番はなんだか夢物語のような気もしないでもありません。そんな儚い瞬間のために日常を費やすからこそ、真剣勝負は面白くて素晴らしいのだと思います。
というわけでいよいよ始まりましたロッソ・テンペスタ初の公式試合。練習試合もいいですが、やっぱり真剣勝負は特別です。詳細を述べるわけにはいきませんが、個性に応じた配置とフォーメーション、ラクロスの基本ルールや戦術、テンペスタのスペシャルプレイといったタクティクスな部分が描かれているのが嬉しいです。個人的には最後の得点の入り方がとても好きです。
試合中の描写となるとどうしても既存の漫画と比べてしまいますが、12人をしっかり描くのは大変ですよね。ただ、小説と漫画とではスポーツの書き方も違うわけですから、読み方だって自ずと変わってきます。野球漫画やサッカー漫画といった球技を題材にした漫画の場合、その視点・焦点は基本的にはボールにあると思います。ボールの動いた先にいる人物に焦点がその都度あてられて、それによってゲーム展開が描かれています*1。ボールを中心とすることでゲームの隅々まで描くことができますが、これはコマ割という漫画ならではの表現手法ゆえになせるわざだと思います。対して、小説、とくに最近のライトノベルに多く用いられている一人称視点だとそうはいきません。主役となる人物の視点によってその描写はどうしても制限されます。広海はセンターというポジションとしてチームの中心にはいますけど、当然のことですが前を向いていれば後ろで何が起きているのかは分かりません。隙を突かれればそれも見えません。見えてても手の届かないところがあります。そういうもどかしいところがあって、でも、それがチームプレイというものだと思うのです。一人だと見えないところや感じ取れないところがあるからこそ、そういうのがつながったときの喜びや快感というのがあるのだと思います。練習でそれを作り、真剣勝負の中で新たにそれを発見していく。思い通りに行くことと行かないことの楽しさ。そういうのが勝負の面白いところです。
ただ、そうはいっても勝つためにはチームを俯瞰的に見てくれるコーチが欲しいし、メンバーだって20人とは言わなくても怪我とかを考えるともっちょっと頭数が欲しいなよなぁ、などとついつい級長みたいなことを読んでて考えてしまうくらい、私的にはお気に入りの物語だったりします(笑)。
そんなわけで、1巻とほとんど変わらないページ数であるにもかかわらず内容はもりだくさんです。作者の手腕には脱帽せざるを得ない・・・と言いたいところですが、タネがありますね(笑)。実は、1巻の1ページあたりの字数が17行×39文字なのに対し、2巻は18行×39文字と、1ページあたりの字数が1行分多くなっています。そりゃ内容があるわけですよ(笑)。ファミ通文庫のページ数制限がどんなものなのか私には分かりませんが、苦労の末に刊行された本であろうことはそれなりに察せられます。続きが出ることを切に願います。
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