乙一『The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day』集英社

乙一ジョジョ乙一なのにジョジョジョジョなのに乙一

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

 乙一による『ジョジョの奇妙な冒険』ノベライズ、『the book』を入手しました。
 端的に感想を言うと、
乙一なのにジョジョジョジョなのに乙一
 でした。
 これが表紙。

 本文中に

本のあつみは、三百八十ページの単行本と同じ(p88)

 という記載があることからも*1、この「本」自体が作中に登場するスタンドである「the book」を模しているのだと想像できます。*2
 これが裏表紙。

 手で引っかいたような痕が印象的です。革表紙のようにみえますが特殊装丁だそうです。*3
 以下、読了後の感想。決定的なネタバレは書いていませんが未読の方にまっさらな気持ちで読んでもらいたいため記事を折りたたんでいます。
 本作は、仗助たちによって吉良吉影が倒された後の杜王町が舞台です。
 密室で「交通事故」に遭遇し女性が死亡するという事件が発生。新たなスタンド使いなのか?そしてその犯人の魔の手は仗助たちにも伸びていき・・・という話です。
 杜王町で起きた新たな事件の謎を広瀬康一東方仗助虹村億泰、そして岸部露伴というおなじみのメンバーが解いていく、というのが本作の「表」のパートです。康一くんのかっこよさや露伴の相変わらずのツンデレぶり(笑)、仗助や億泰の手に汗握る戦闘シーンなど、荒木先生の「ジョジョ」をうまく活字で再現しています。個人的には康一君と由花子さんとのラブラブっぷりが面白かったです。
 しかし、乙一の本領が発揮されるのは、殺人者であるスタンド使いを描く「裏」パートと、間に挿入される杜王町の都市伝説となったとある事件を描く「間」パートです。
 今回、仗助たちの敵として登場するスタンド使いは生まれついてのスタンド使いでした。彼が自身のスタンドに気づく前の特殊能力、それがゆえに周囲との間に築かれる壁。乙一はこういった「傷つきやすい」登場人物を、彼(あるいは彼女)を追い詰める周囲の環境、そしてそれによって傷ついていく人物の心情を描くのが非常に巧く*4、本作でも「特殊な能力を持ったばかりに」周囲と距離を置いている主人公(そう、主人公です)を読者に気持ち悪くさせるぐらい、その心情を巧みに描いています。
 そして、杜王町で人知れず起こった、都市伝説にもなったとある事件を描く「間」パート。
 乙一の作品のもう一つの特徴として、日常に潜むちょっとした「奇妙」というのがあります。例えば、担任教師に地味ぃにいじめられた「僕」が見る「青」(「死にぞこないの青」より)、腕に書いた動く刺青(「平面いぬ。」より)、ある日かかってきた空想の携帯電話(「Calling You」より)など、ちょっとした「奇妙」を日常に紛れ込ませ、ちょっとだけ逸脱した「日常」を描きます。本作でも杜王町の都市伝説の一つとなった「トニオのイタリア料理店」や「エニグマの本」の下りが登場し、漫画で体験した「奇妙さ」が乙一の筆によって鮮やかに蘇ります。
 ネタバレを避けるために「間」パートの詳細はここでは記載しませんが、ある意味日常における「奇妙」を描くこのパートが、同じく「日常に潜む「奇妙」」を描いてきた『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に非常に合っていると思いました。
 表パートと裏パートが交差するスリリングさ、間パートがその真相を明らかにするときの驚き、そして最後のシーンの「せつなさ」。
 ジョジョ乙一という両個性が激突した『the book』。その二つの個性が損なわれず、新たな化学反応を起こした本作は非常に面白く、まさに濃密世界を満喫しました。
 ジョジョファンにも乙一ファンにも胸を張ってオススメできる一冊です。グラッチェ!

*1:あとがき最終ページがちょうど380ページ

*2:ちなみに、下に敷いているのはモーツァルト「レクイエム」の楽譜です。各章の引用文にちなんであります

*3:『青春と読書』12月号より

*4:この辺が「白乙一」の所以です