『暴風ガールズファイト』(佐々原史緒/ファミ通文庫)

暴風ガールズファイト (ファミ通文庫)

暴風ガールズファイト (ファミ通文庫)

「彼女は、『負ける』ってことをちゃんと知ってる。負ける怖さも悔しさも判ってる。だけど、それでも本気で『勝とう』って言える人なんだと思った」
「そういう人となら、一緒に勝負してみたい。新しいことを始めてもいいと思ったんだ」
(本書p163〜164より)

 前作を読んで気に入ったので作者買いしましたが、本書もまた面白かったです。
 本書は、ミッション系の女子高が舞台の、ラクロスを題材にした正統派スポ根ものです。スポ根はいいですよね。いや、精神論・根性ばかりを強調するタイプのものは好みじゃありません。心・技・体というくらいですから、ちゃんとトレーニングをして技術を身に付けてといった要素をきちんと押さえた上で、根性というかアスリートとしての心理的葛藤を描いてくれてるのが理想なわけですが、本書はまさにそういう作品です。
 スポーツを題材にして小説というのはマンガと比べると動きを書くのが難しいので、反面、心理状態・瞬間瞬間の判断を描くにはマンガよりも適しています。主人公の麻生広海(表紙のキャラじゃないです・笑)はミディ(MF。サッカーで言うところのミッドフィールダー)としてゲームを組み立てる役割を与えられていますから、そうしたゲーム中のゲームプランニングとか読み合いとか邪念・雑念とかが楽しいです。もっとも、本書の物語はまだまだ始まったばかりです。最低でも12人必要なメンバーもまだ8人しか集まってなくて、広海を始めとしてそのほとんどが素人です。広海もまだまだ技術が未熟でゲームメイクできるようなレベルではないのでもどかしくはありますが、上手くなったときの広海を中心としたゲームの駆け引きが今から楽しみです。
 スポ根ものの題材としてラクロスを選んだのは正解だと思います。ライトノベルの主要読者は中高生ですが、メンバー同士である程度濃密な人間関係を描こうとすると主要キャラは中学生より高校生にしたいですが、スポーツというのは何といっても経験がものをいいますので、高校生の初心者が全国を目指すという展開にリアリティを持たせるのは正直難しいです。ところが、女子ラクロスはマイナーなので底辺がまだ確立されてません。大学から始める人が多いですし、高校生でのラクロスとなると初心者なのが当たり前というのが現状です。そんなわけですからラクロス部がある学校も少ないです。ググッてみたところ、関東でだいたい20から30チームくらいしかないようです。全国や日本一までの距離が他の競技と比べてとても短いので(←こんな邪道な考えで入部するキャラは今のところいませんが・笑)、上を目指しやすいのです。もっとも、マイナー競技にはそれなりの悲哀がつきものです。メンバーが集まらない、練習場が確保できない、指導者がいない、などなど。そうしたお約束的な困難を乗り越えなければ部活動ができないわけですが、部活として存続していくためのマネージメント的なパートは、マンガより小説の方が書きやすいですね(個人的に腹黒コンビが大好きです・笑)。
 基本的には初心者集団なので、本書は練習とかの準備段階がメインのお話になっているのですが、その過程でキャラクタの性格やラクロスへ挑戦する動機とかが自然と語られていきます。それに伴ってキャラ同士の人間関係とか相性が徐々に生まれていくのも面白いです。まさに正統派です。
 スポ根ものの何がいいっていえば、メタに逃げることのないガチンコ勝負が描かれて、「ルールのインフレ」というような後付けの理論によらないフェアな勝負が楽しめるのが最大の魅力です。物語が始まったばかりですが、これから先、もっと上達していけばラクロス特有の戦略・戦術というのが描かれていくんだろうと思います。正直、本巻だけではもの足りないというかもったいないので、続刊希望です。
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