『学校を出よう! 4』(谷川流/電撃文庫)
学校を出よう!〈4〉Final Destination (電撃文庫)
- 作者: 谷川流,蒼魚真青
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2004/03/01
- メディア: 文庫
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平行世界が仮に存在するとして、そうしたパターンの分岐はどのように行なわれていると考えるべきなのでしょうか? ノベルゲーム(ADV)によくあるように、登場人物たちの分岐点における行動の選択によって枝分かれしていくのでしょうか? しかし、前提条件が変わらないのであれば、何度やっても同じ行動が選ばれるはずです。人格・個性とはそういうものでしょう。人間に自由意志などないというスタンスに立てばなおさらです。つまり、平行世界の発生には、その世界の住人にとって人知の及ばない存在による恣意的な状況操作とポイントの設定が欠かせないのです。
ただ、このことは人格というものの考え方によって変わってくるのかもしれません。例えば、コンピュータの将棋ソフトには擬似乱数が組み込まれています。最善を追求しているはずの将棋ソフトになぜこのような運任せの要素が加えられているかと言えば、こうしないと同じ条件で手を進めていくと常に同じ手が繰り返されてしまうことになり、必勝パターンを見つけられてしまうからです。それを防ぐための擬似乱数ですが、それと同じように、人格とは一種のプログラムでありその中にそうした擬似乱数が組み込まれていると考えれば、単なるリセットによっても行動の分岐が生まれると考えることはできます。「サイコロを振る」などおよそ神様ならぬ行為ですが、本シリーズ6巻の最後の方で示唆されていることを加味しますと、こうしたことも併せて考えておくべきかもしれませんね。
ま、平行世界理論と、それを仮に肯定したとしてどのように生きるかはまた別の問題です。っていうか、実は私は平行世界があろうがなかろうがどうでもよいと思っているのですが(笑)、中には憂鬱になっちゃう人もいます(参考:プチ書評『ひとりっ子』)。平行世界の問題は人生観にもなぞらえることが可能です。本書ではそのことについて宮野が一人テンションを高くして語っていますが、結構大事なことだと思います。
本書は、超能力ものらしくEMP同士のバトルがあります。今までもなかったわけではありませんが、どちらかと言えば単なる力比べでした。それが本書では、EMPによる戦術・駆け引きといったジョジョっぽいバトルが描かれていますので、ともすれば陰鬱な雰囲気になりがちな平行世界の問題もアップテンポで読ませてくれます。
ところで、私は本書を読んでP・K・ディックの『高い城の男』を思い浮かべました。『高い城の男』もやはり平行世界のお話なのですが、第二次世界大戦の勝敗が逆転し、日本とドイツが世界を二分して統治している世界が描かれています。もっとも、その世界に住んでいる人間にはその世界が当たり前なので世界についての疑問など本来なら持てはしないはずなのですが、『高い〜』ではそこで一冊の本が重要な役割を果たします。「イナゴ身重く横たわる」という本がそれですが、その本には作中の歴史とは逆にアメリカやイギリスなどの連合軍が勝利した歴史が描かれています。その本のあまりのリアリティの高さが、『高い〜』中の人物たちを苦悩させることになります。
また、『高い〜』では易経(参考:Wikipedia)という占いによって登場人物が行動を決定する場面が多々あるのですが、実はディック自身もこの易経を使って『高い〜』のプロットの決定に使ったことを告白しています(詳細は『高い〜』巻末の訳者あとがき参照)。この易経、”当たるも八卦、当たらぬも八卦”というくらいですから八という数字が基本となっています。ですから、通常は六十四卦が基本ですけれど、数理的には64から128、256へと拡張・細分化することも可能です(参考:フローに乗るための補助輪、易)。本書『学校を出よう! 4』作中では#256が重要な数字とされています(もっとも、マイナスもあるので数にあまり意味はないという見方もあります)。256という数字は情報処理で頻出する数字なので(参考:Wikipedia)一義的にはそっちのイメージなのでしょうが、平行世界と絡んでくると私には易経が頭をちらついてどうしようもありませんでした(苦笑)。
- 作者: フィリップ・K・ディック,土井宏明(ポジトロン),浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/07/31
- メディア: 文庫
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・プチ書評 『学校を出よう! 1』
・プチ書評 『学校を出よう! 2』
・プチ書評 『学校を出よう! 3』
・プチ書評 『学校を出よう! 5・6』
・『学校を出よう!』シリーズとP・K・ディック作品の関連性についての私論
【少しだけ関連】
・そもそも小説って何?