『今日の早川さん』(COCO/早川書房)

今日の早川さん

今日の早川さん

 coco's bloblog - Horror & SFさんの人気web漫画『今日の早川さん』待望の書籍化です。基本的にはブログに掲載されていたものをベースに、書籍化にあわせて全面的に書き直されて、一部書下ろしもあって、さらにオールカラーですからweb漫画を逐一チェックしていたファンにとっても価値ある一冊となってます。
 SF者の早川さんにホラーファンの帆掛さん、純文学読みの岩波さんにラノベ読みの富士見さんに、レア本好みの国生さんといった個性的な本読みの女の子たちによる日常を描いた、本読みにとっては「あるある感」に満ちた一冊です。
 履歴書などに書く趣味として「読書」というと、なぜか人畜無害で無個性なものに思われがちですが、実はかなり危なくて始末におえないオタクなのだということを本書は切実に訴えてくれてます(笑)。私はミステリ読みですが古書店には頻繁に出入りするので、この中だと立場的には国生さんが一番近いのですが心情的には早川さんが近いです。笑えるところと笑えないところがあって(苦笑)、そんな自嘲ポイントにオタク心がくすぐられます。再読性の高い本です。オススメです。

 4コマ漫画としてみたときには、文章の横書きというのが珍しいです(私が知らないだけで他にもあるかも知れませんが。ひょっとしたらゲーム系だと多いのかも?)。SF者の早川さんが主人公なので横文字も多いですし、2ちゃんネタも横書きじゃないと再現できないですから当然と言えば当然と言えます(そもそものブログ版が横書きですし)。ミュージシャンが路上ライブからメジャーデビューする例が珍しくないように、絵描きさんにとってネットは一種の路上・パフォーマンスの場ですから、そこからメジャーデビューする例はこれからどんどん増えていくことでしょう。そうすると、ネットのスタンダードである横書きが今後増えていくのかなぁと思ったり思わなかったりですが、しかしこれは私には何とも言えませんね(801ちゃんは縦書きでしたし)。しかしまあ、分からないなら分からないなりに少しは頭を使ってみましょう。
 何でもいいので既存の4コマ漫画をご覧いただければ分かるのですが、普通は縦書きです。ですので、セリフを表現する「ふきだし」も自然と縦に長くなります。で、四角いコマの中にキャラクタを描きますと、その余白も縦長になることがとても多いのです。従いまして、キャラクタにかぶることなくセリフ・「ふきだし」を配置しようとすると縦書きの方がやり易いと考えられます。その点、『今日の早川さん』のコマを見ていってもらえば分かりますが、キャラクタたちの上方に横長の「ふきだし」が積み重なって会話がなされることが多いです。もともと説明調なところが『早川さん』の特徴・長所なのでこれはこれで読みやすいのですが、漫画としてみたときにはワンパターンなのは否めません。ってか、これだと動きがとても付けづらそうです。こんな視点から見ていくとCOCOさんの苦労と工夫が少しは分かって面白いです(←超嫌な読者)。
 その一方で横書きには横書きの利点もあります。普通の4コマ漫画だと縦書きですから右から左へと読んでいくので、最初に話す人物が右側に描かれて、それに応える人物が左側に描かれることが多いです。その点、『早川さん』も既存の4コマ漫画と同じく右側に最初に話す人物が描かれることが多いです。ただ、横書きだと左右の力学よりも上下の力学が優先されるので、最初に話しかけるセリフの「ふきだし」が、返事の「ふきだし」より右にあってもそれより上にあれば読者は混乱することなく意味の通る順番どおりに読むことができるので、「ふきだし」をクロスさせる必要はありません。このことから、キャラを少々犠牲にしても掛け合いを大事にしたいという漫画の場合には横書きはかなり魅力的な手法だと思います。あと、海外進出にはとても楽そうですね(笑)。もっとも、現在の雑誌への掲載を前提にするとかなり無理がありますけどね……。
 ま、実際のところどうなるかは私には分かりませんが(音楽4コマだと楽譜のときは横長であとは縦長といった混合タイプの登場も考えられますし)、表現手法はいろいろあってよいでしょうから、お約束にとらわれることなく積極的にチャレンジするのもまた良しだと思います。
【関連】
http://d.hatena.ne.jp/kaien/20070906/p1
ジョーとかリュウとか - SFムーンストーン enziの日記

今日の早川さん』63ページは左右がおかしいーっ!

 あ。確かに(笑)。