『たま◇なま』(冬樹忍/HJ文庫)

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~ (HJ文庫)

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~ (HJ文庫)

 第1回ノベルジャパン大賞”大賞”受賞作です(ちなみに、佳作はこちら)。
 本書を一言で表すと、ライトノベル版”夢みる宝石”です。鉱物生命体というアイデアの根本が同一なのもさることながら、人間性とは何か? というテーマの類似性もあってなおさら意識せざるを得ません。もっとも、だからと言って別に非難するつもりはまったくありません。鉱物生命体というアイデアは前例があるからと言っても突飛なものには違いがなくて、それを小説にするのはそれなりの力量が必要なのは間違いありません。それに、人間性というテーマは普遍的ですから、その時代にその時代の言葉で語られることが常に求められます。そういう真面目なテーマを書いてることは素直に評価したいです。
 で、せっかくなので両者を比較しますと、『夢みる宝石』は幻想SFの巨匠として知られるスタージョンの作品だけに、晦渋で難解で幻想的で物語性はとても高くて、そういう点では本書は遥かに及びません。その代わりと言っては何ですが、ラノベのテンプレを利用することでラノベ読者には読みやすいものになっているのでしょう。また、少年犯罪の現実を、社会派に寄り過ぎることなくほどほどに背景として用いることで主人公たちの生い立ちに嫌なリアリティを感じるものになってます。個人的には、こうした社会派的な部分にはもっと踏み込んで欲しいとは思うのですが、社会派にしちゃうと売れるイメージがないみたいなので仕方ないですね(トホホ)。
 『夢みる宝石』は人間的な非人間と非人間的な人間とを描くことで人間性を描いています。一方本書は、主人公を人間と非人間の中間に立たせつつ、人間性とは何か? の前提として、そもそもなぜ生きているのか? を描こうとしている……らしいです(本書あとがきより)。分からなくはないですが、成功しているとは言い難いです。主人公が自らの空白を意識してから生甲斐を感じるまでの描写がすっ飛ばされてるのがその理由で、ま、そんなものなのかもしれませんが、もう少し駄文でいいから書き込んで欲しかったと思うのは私だけでしょうか? というのも、主人公と石ころ少女のずれてるようで噛み合ってる掛け合い自体は結構面白かったので、そのついでにちょこっとそんなことも書いて欲しいなぁと思いました。続編があってもなくてもおかしくないような終わり方をしてるので、ひょっとしたら温存したのかもしれませんが、書けることは書いて欲しいと思うのが、一読者として無責任ながらも偽らざる本音です。
 最後に、せっかくの大賞なのですから、挿絵にもうちょっと力が入ってても罰は当たらないと思うのですが……。
夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF)

夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF)