難しき者。汝の名は著作権

 昨日フジモリが著作権ネタを語っておりましたが、当サイトのキャラとして私が触れないわけにもいかないのでしょう(笑)。なお、一言で著作権・著作物と言ってもいろいろありますが、ここでは言語の著作物・書籍に限定しますのであらかじめご了承下さい。以下、条文については著作権法を意味します。間違いとかあったら遠慮なくご指摘下さい。あっさり修正しますので(笑)。

 まずは基本から。著作権の具体的な内容として、著作人格権、著作財産権、著作隣接権の3つに分類することができます。書籍がメインの今回は著作隣接権は関係ないのでスルーして下さい(笑)。
 著作人格権は、著作物を創作することで著作者に帰属する権利で、これを譲渡することはできません。著作人格権は、公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)があります。
 著作財産権は、財産権ですから譲渡することが可能です。著作権法では第三款以下で定められていますが、各権利の有無については著作物の種類によって個別に検討する必要があります。書籍の場合だと、複製権(21条)、公衆送信権(23条)、口述権(24条)、譲渡権(26条の2)、貸与権(26条の3)、27条(翻訳権、翻案権)、二次的著作物利用権(28条)が該当します。
 書籍の場合だと、さらに出版権というのが第三章以下で定められています。出版というのは著作財産権における複製+譲渡のようなものですが、もっともポピュラーな書籍の流通形態ですから個別にルール化したということでしょう。ここでは、出版の内容(80条)、義務(81条)、存続期間(83条)などが定められています。

 ここからが本題です。
 ある作家Aさんが小説を書き上げたとします。このとき、著作者はAですし著作権者もAです。で、AがB出版社からその小説を書籍として出版してもらうことになった場合に、AB間で複製権や譲渡権といった著作財産権すべての譲渡契約が結ばれたのであれば、それは、著作者はAだけど(著作人格権は残る)B出版社が著作権者となった、ということになります(もっとも、著作財産権は権利ごとに譲渡可能なので問題となる局面ごとに権利者であったりなかったりすることがあります)。ちなみに、こうした著作権の移転を第三者に対抗(主張)するためには登録が必要となります(77条)。
 もう一つは出版権設定契約です。これによって出版社Bは、独占的にAの書籍を出版することができます。もっとも、条文どおりの出版権設定契約だと著作物を可能な限り忠実に複製するというのが出版社側の権利・義務ですので、単純なパクリなら文句が言えますが、同人誌などよる著作物が改変された二次的著作物に対してクレームをつける権利は出版社には原則としてありません。そこで、出版権設定契約の際には翻案権(対アニメ化)や二次的著作物利用権などについての契約条項を設けることがあるみたいです。この条項によって、出版社も先のような「著作権がある」のと同じような状態になるわけですね。なお、出版権設定契約を第三者との関係で有効なものとするためには登録が必要となります(88条)。出版権設定契約だと、著作権者は基本的にはAですが、出版社Bにも契約条項の中身によっては著作権者と言えることがあるでしょう。
 ですから、二次的著作物に対して出版社に著作権があるという場合には、大別すると、1.著作権譲渡契約による場合、2.出版権設定契約+契約条項の場合、の2つが考えられることになります。で、

受賞作品の著作権(出版権、ゲーム化権、映像化権、その他副次商品化権を含む)は、株式会社○○に帰属します。

といった表記だけだと、果たしてどっちを意味するのか正直分からないのです。
 どちらが良いとか悪いとかはそれこそケース・バイ・ケースでしょうし、どちらが一般的なのかも出版関係の契約書の中身を私は具体的に見たことがないので分かりません。契約条項といっても、著作権の移転・制限ということに変わりはないわけで、おそらく出版権設定契約と一緒に著作権の登録もなされているものと思われます。このとき、二次的著作物の利用権についてはとのようになされているのでしょう? この権利が出版社側に完全に移転しているのであれば、理論的には著作者が続編を書くのにも出版社の許可が必要になっちゃう気もしますし……。そうした細かいところまで登録簿で確認できるものなのでしょうか? 一度、登録簿を見てみたいですね。
 あと、著作権譲渡契約などで著作権が出版社に移ったとしても、著作者には著作人格権が残りますから、20条の同一性保持権によって二次創作についてクレームを言える余地があります。そこで、作家と出版社のガイドラインが並列するという分かりにくい現象が生じるわけです。……やっぱり難しいです(泣)。
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