『樹海人魚』(中村九郎/ガガガ文庫)

樹海人魚 (ガガガ文庫)

樹海人魚 (ガガガ文庫)

 中村九郎の新刊でございますよ。中村九郎の作品は独特のルールで描かれているので読解が難しいのですが、慣れてきてしまってるような気がします(笑)。”樹海”という死を思わせる単語と”人魚”という不死の生き物をくっつけた意味不明のタイトルですが、中身の方は編集さんの調律・指揮をかなり感じるものになってます。ってゆーか、レトリックというより連想ゲームに近い読み方で楽しむのが良いかと思われます。
・人魚→にんぎょ→人形
であり、かつ、
・人魚→ローレライ(参考:Wikipedia)→歌い手
ということで、人魚のパートナーは指揮者ということになったのでしょう。人形遣いの糸と運命の赤い糸を重ね合わせるイメージは分かりやすいです。それに、不死と輪廻のイメージは月齢(14日)の変化をなぞらえたものでしょうし、月だからラビットですし、酸月も3月でマーチラビット、サークルチェンジも月の満ち欠けをイメージしたものでしょうし、満月→ミツオでしょう。だから何なの? と聞かれると答えようがないのですが(笑)、そういうものだと思って読めば何となくイメージはつかめました。何が言いたいのかイマイチ分からないのは相変わらすですが。
 ただ、『ロクメンダイス、』と比べると普通な物語になってきてるのは確かだと思います。これを喜ばしいと思う向きもあるのかもしれませんが、個人的には少々残念です。中村九郎にはいつも斜め上の上を期待してるので(笑)。裏表紙に、絶対零度ツンデレ・バービー、罵倒系お姉・由希にみだらなラビットとあるのですが、正直ピンときません。中村九郎にそんな類型化による逆算めいたキャラ造形を強いるのは、”角を矯めて牛を殺す”ようなものなのでやめた方が良いと思います。成功してるとも思えませんし。もっと中村九郎の脳内に存在するキャラクタをダイレクトに表現して欲しいです。怖いもの見たさこそ私が中村作品を読むモチベーションなのですから。もっとポカーンとしたいのです。
 著者のあとがきで、扱いがたいテーマを、それ日本語か? という言葉で小説を書こうとする私とあるのに驚きました。自覚はあるのですね(笑)。
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