『メシアの処方箋』(機本伸司/ハルキ文庫)

 『神様のパズル(書評)』に続く長編2作目です(内容は関係ないです)。
 『神様のパズル』はとても面白楽しく読めたのですが、こっちはイマイチでしたね。まず、ストーリーの大まかな流れが前作とほとんど同じで意外性がないというのが痛恨です。さらに、キャラクタの魅力も前作より減じています。これも痛恨です。
 生命科学はテーマとしては悪くないと思いますし、それをオーバーテクノロジー扱いせずにSFでありながらもリアリティを伴ったものにしようとした作者の意図自体は積極的に支持したくはあります。ただ、その際、個人的に一番関心のある生命倫理の問題をすっ飛ばして「そんなの作ってみてから考えればいい」とされちゃうとモヤモヤ感が残ってたまりません。もっとも、生命科学をテーマとした物語はだいたいここでつまずいちゃうことが多いので思い切ってスルーしたのは英断と言えるのかもしれません。実際、ここをスルーしても、政治的な問題や企業間の競争、技術的な困難といった様々な問題があるわけで、そうした要素を次々とクリアしていこうとする主人公たちの奮闘振りはそれなりに楽しめました。
 生命科学がテーマの場合、そうした医療を行なう人間の行為が神の領域を侵すことに繋がるのではないか、という人間の神化という方向から問題とされるのが通常です。ところが、本書の場合だと医療行為者は人間のままで、自らが作り出そうとしているものに神としての希望・救いを求めます。この立場の入れ替えは個人的には面白いと思いましたし、さらなる検討に値するアプローチだと思います。ただ、それならそれでもっと暴走して欲しかったです。本書はどうも問題提起に終始してしまってて、作品としての中身が薄くなってしまってるように思えてなりません。作者なりに生命科学という問題に真摯に取り組んだからこそなのかもしれませんが、SFとしてのセンス・オブ・ワンダーが感じられません。もっと無茶苦茶やっても良かったのに。
 あと、この表紙は何とかならなかったものでしょうか? いや、一枚の絵としてはとても綺麗だと思います。ただ、あまりに本書の内容と乖離し過ぎていて詐欺くさく思えます(笑)。もっと二重螺旋とか描いてSFらしさをアピールした方が良かったと思うのですが、これはおそらく前作とのセット化を狙った出版社の意向なのでしょう。気持ちは分からなくもないですが……。

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)