別館号外さんちゃ0035号@フジモリ

「ジョン平とぼくと」についてもう少し語ってみる

 昨日のアイヨシの話題に便乗します。

 ●プチ書評 大西科学「ジョン平と去っていった猫」GA文庫

 「ジョン平とぼくと」がネット上でいまいち評価が低かったのでその分析と擁護を。

 以下、ネタバレ含みます。


 「魔法が科学を駆逐した」世界で、ジョン平と、「ぼく」こと北見重が、科学室の乱入者「岡崎三葉」を巡り冒険を繰り広げるお話です。
 全編通じてぬるくてまったりした雰囲気はそのままに、謎の組織が登場したり、北見重の父親にまつわるエピソードも出たりと大きな伏線も張られたりしていますが、基本は主人公北見重の相変わらずの文系少年さと、彼の成長物語だと思います。
 ただし、ネット界隈をまわったところ「伏線がわかりやすい」ことが一因となり、いまいち評価が低いように見受けられます。
 確かに、本のタイトルと章題、そして登場人物の言動で「岡崎三葉」の正体、能力、そして彼女がどうなるのかは「ライトノベル読み」なら容易に想像がつくでしょう。それは、「ジョジョの奇妙な冒険」を祖とする「頭脳戦をメインとする異能力もの」の「文法」が身についているからかと思われます。
 逆に言うと、この作品のターゲットはいわゆる「ライトノベル読み」ではなく、「本来のライトノベルのターゲット」である「小中高生向け」に、「あえて」ハードルを低く設定しているように思えます。
 ブログ全盛のご時世、作品の評価はいわゆる「ノイジー・マイノリティー」が決めているといって過言ではないと思います。彼らの感想がその本の「評価」となってしまいがちです。そのような流れの中であえて「わかりやすい伏線」「わかりやすいストーリィ」を真っ向から書くという作者の姿勢は非常に評価できると思います。
 一連のライトノベルブーム(正確には「ライトノベルを語ること」のブーム)のあと、乙一新城カズマ桜庭一樹桜坂洋米澤穂信有川浩などの「ライトノベルの枠を超える」作品が各地で取り上げられましたが、この作品のように「下に」ライトノベルの枠を超えることで、さらに「ライトノベル」というジャンルの懐の広さが見えた気がします。
 もちろん、作品そのものは足場のしっかりした舞台設定と個性的な登場人物(および使い魔)も相俟って良質のエンターテイメントに仕上がっています。「サイレント・マジョリティ」=「本来のライトノベルターゲットである小中高生」以外の方も楽しんで読めると思いますので、未読の方はぜひともご一読オススメいたします。

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 ●さて次の企画は 00年代のキノの旅、GA文庫「ジョン平とぼくと」待望の2巻が発売。