『誘拐症候群』(貫井徳郎/双葉文庫)

 警察の捜査対象から微妙に外れることを目的とした誘拐群と、警察を堂々と相手にした1億円の誘拐と、大きく分けて二つの誘拐事件が本書では描かれているわけですが、その関連付け方がとても面白いですね。この趣向を楽しむだけでも本書を読む価値は十分にあると断言できます。
 プチ誘拐の方ですが、プチとは言えたちが悪いですよね。巻末の大森望の解説によれば、ミステリの歴史上たぶんはじめて、ウェブ日記がネタに使われている(p384より)ものだそうですので、そういう意味でミステリファンなら必読書かも知れません。
 もうひとつの誘拐の方は、天藤真『大誘拐(書評)』岡嶋二人の『99%の誘拐』といった傑作と比べると見劣りしますが、作中のプチ誘拐との比較では大掛かりなトリックが用意されていて、少なくとも物語の中では十分に楽しめるものになっています。
 特殊チームのメンバーの中で、今回は武藤が主役格ですが、それよりもむしろ環の凄みが際立ってますね。それに、武藤がどうして環の今回のやり方に納得できないのか、その辺りのことがイマイチぴんときませんでした。イレギュラーなことやってるのはいつものことなはずなのですが……。

誘拐症候群 (双葉文庫)

誘拐症候群 (双葉文庫)