悲観主義者は世界を救えるか。 大須賀めぐみ『VANILLA FICTION』

VANILLA FICTION 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

VANILLA FICTION 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

魔王 JUVENILE REMIX』『Waltz』の大須賀めぐみによるオリジナル長編漫画です。

バッドエンドしか書けない人気小説家・佐藤忍はある日傷つき汚れた少女・エリと出会う。
「案内人」を自称する男から、「世界を救うため」にエリと「あること」をするよう強制される。この出会いを境に、彼の日常は音を去って崩れ去っていく・・・

伊坂幸太郎の小説『魔王』を下敷きとしながらも同作者の『グラスホッパー』の登場人物を違和感なく取り込み、さらには伊坂作品に登場するキーワードをふんだんに取り入れたまさに「スーパー伊坂大戦」とも呼ぶべき『魔王 JUVENILE REMIX』、そして同作の登場人物「蝉」を主人公としたスピンオフ『Waltz』と、個人的にお気に入りのマンガ家なのですが、本作『VANILLA FICTION』もまた非常に面白かったです。
この作者の特色としては、少年誌ながら拷問や殺人シーンをわんさか描きながらも「凄惨だけど残酷ではない」スタイリッシュな絵柄であったり、ときおりカバー下などで見せる良い意味での変態性などであるのですが、本作もまたいたいけな美少女を中心にわんさか人が死んでいく楽しいお話に仕上がっています。
オビには「1ページ先で何が起きるか予想もできない」とありますが、これがまたオビオビ詐欺ではなく本当に予想ができず、フジモリも読みながら「えっ」と声をあげてしまうこともしばしば。
ページをめくると
*1
薄汚れたヒロインの見開き。
*2
そして鮮血。
こういった「えっ」が次々と読者に襲い掛かります。
本作の主人公・佐藤忍はバッドエンドしか書けない小説家なのですが、自身がピンチのときにその設定が活かされるなど、サスペンスとして非常に良質な作りとなっています。窮地に追い込まれた佐藤が知恵を絞り活路を見出すところなどは、『魔王 JUVENILE REMIX』で主人公・安藤が「考えろ考えろ考えろ」と己のちっぽけな能力を使って生き延びていくシーンを彷彿とさせます。
予測の上を超える展開や巧みな伏線、毛羽立ったキャラクタ造形などこれまでの大須賀めぐみの色をふんだんに盛り込んでいながらも、「何かと何かはつながっている」という物語に通底するテーマや「とにかく読者を驚かせよう、楽しませよう」とするサービス精神などは「伊坂幸太郎作品」のテイストが色濃く反映されていると思います。
長編マンガというのは打ち切りとの戦いでもあり、尻つぼみになるリスクと紙一重ですので1巻の時点でプッシュすることはなかなか難しいのですが、「先が読めない」スリリングさと、仄かに流れる「伊坂幸太郎イズム」から、昨年末には「私家版このマンガがすごい!2012」ベスト10の一冊として挙げました。
2巻以降もこの疾走感を貫いてほしいと願いつつ、多くの方にオススメします。

魔王 1―JUVENILE REMIX (少年サンデーコミックス)

魔王 1―JUVENILE REMIX (少年サンデーコミックス)

Waltz 1 (少年サンデーコミックス)

Waltz 1 (少年サンデーコミックス)

*1:P30,31

*2:P32,33