『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』(赤木大空/ガガガ文庫)

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)

 日本国内において、性的な表現が公私を問わず全面的に禁止されてから十数年。
 執拗なまでの法整備と監視システムの確立により、世界で最も健全な風紀を手に入れた日本というキレイな国に、下ネタなんて概念は存在しない。汚らわしいものを排除された子供たちは健やかに幸せに成長し、輝かしい未来を担っていく。
 ――そういうことに、なっている。
(本書p13より)

 第6回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作品です。
 その昔、週刊少年ジャンプで『究極!!変態仮面』(参考:究極!!変態仮面 - Wikipedia)という主人公がパンティをかぶって活躍するという下ネタヒーロー漫画があったなぁ。とか、あるいは、エロテロリスト(参考:インリン・オブ・ジョイトイ - Wikipedia)なんて名乗っていたタレントがいたなぁ。とか、そんなことを少々遠い目になって思い出してみたり……。
 エロとか下ネタとかの発想自体は普遍的なものでしょうし、そうしたものは世代を越えて語られて広まったり浸透していくものでしょう。一方で、法律で既成の対象となる「わいせつ」ついて、裁判所の判例では、1.従に性欲を興奮又は刺激をせしめ、かつ2.普通人の正常な性的羞恥心を害し、3.善良な性的道義観念に反するもの、という最判昭26年5月10日によって明示された3要件の定義がいまだに維持されていますが、その内容自体は社会情勢の変化に伴って実務レベルでは変化してきているとされています。なので、個人と社会の関係について考えるという意味で、下ネタという題材は馬鹿馬鹿しくも適切なものだといえるでしょう。いや、お話自体はホントに馬鹿馬鹿しいですが、でも、それがいいです。
 といいますか、ハードディスクが「わいせつ物」に当たると判断した最判平成13年7月16日みたいなのもありますから、「わいせつ」とか「わいせつ物」についての裁判所の判断自体がともすればネタと紙一重だったりします。徹底した監視システムの整備によって、下ネタ的な禁止単語を口にすること自体が禁止されているわけですが、ネットのブログとか掲示板などで書き込み禁止単語が設定されているご時世で、そうした設定がなされるのにはなされるだけの理由があるわけで、「わいせつ」や「ヒワイ」といった概念はやはりなかなかに厄介で、それでいて面白い概念です。
 禁止単語の規制から逃れるために「まつたけ」とか代替語を使ってみたり「鈴の音のチンチン」とか意味を変えてみたりといった言葉遊びも楽しいですし、かと思えばド直球の下ネタワードが堂々と連呼されたりと、徹頭徹尾下ネタまみれです。とはいえ、『ドラゴンクエストX』でレオナという名前が伏字になる、といったことが現実に起きたりしてますし、思いもよらないワードが下ネタ扱いされたりするので油断がなりません。また、《エイチ禁止法》にしても、17歳の女子高生の彼女とセ●クスした疑い 男子高校生を逮捕といった事件が現実にあることを考えると笑えるような笑えないような、そんなお話です。
 個人的には、普段は下ネタを連発してるくせに、いざ実物を目にすると動揺しまくりな華城先輩がベタながら面白いです。そんなわけで、いろんな意味でオススメの一冊です。
【関連】http://ga3.gagaga-lululu.jp/write/2012/08/3_7.html