『放課後カルテ 1・2』(日生マユ/講談社)

放課後カルテ(1) (BE LOVE KC)

放課後カルテ(1) (BE LOVE KC)

放課後カルテ(2) (BE LOVE KC)

放課後カルテ(2) (BE LOVE KC)

 小学校が舞台の学校医が主人公のお話です。教育も医療も、それぞれ別個に作品が一本書けるくらい重要なテーマなわけですが、その両方を扱っているところが本書の面白さです。
 ”学校医が主人公”と先述しましたが、これは実際には語弊のある表現でして、例えば2巻の登場人物紹介欄を見てみますと、学校医の牧野先生、5年2組担任の篠谷先生、3年2組担任の芳野先生と、大人についてはフルネームが明かされない一方で、生徒については、野咲ゆきとフルネームで紹介されています(もっとも、一人だけですが)。これは、作中で先生はあくまで○○先生としか呼ばれない一方で、生徒はあだ名で呼ばれたり苗字で呼ばれたり呼ばれたりと様々な呼ばれ方をする、という事情もあるのでしょうが、やはり学校の主役は生徒であって先生ではない、という主張の表れでもあると思います。
 とはいえ、いずれは牧野先生について詳しいことも分かってくるでしょうし、そうすれば、自ずと登場人物紹介欄に書かれてくることも変わっていくことでしょう。というのも、学校に医師が学校医として常駐しているのは珍しいことなわけで、だとすれば、どうしてそういう珍しいことになっているのかということが、今後語られるであろうと思うからです。ついでに言えば、よく「保健室の先生」などという言い方をしますが、ググッてみるとそれはあくまでも通称で、実際には養護教諭のことを指していることが多いそうです。そして、養護教諭は教員であるのに対し学校医は医師であるという違いがあります(養護教諭 - Wikipedia)。牧野先生と教職員との関係は表面的には良好といえませんが、その背景として、こうした立場の違いがあるということを見て取ることもできるでしょう。
 医療ドラマとして本作を見ると、その対象のほとんどが小学生であるため、例えば病気にかかったとして、自らが感じている具合の悪さや症状といったものを上手く表現できないという事情があります。そうした初期症状を的確に見抜いて診断や応急処置を行って専門医の治療に委ねるという役割が学校医には求められることになります。いわゆる代弁者(アドボカシー)としての役割です。また、心も身体も未発達な小学生という時期においては、精神の不調が身体の不調として現れることもあります。そんなとき、医師によるフォローと教育によるフォローが必要になることもあります。もちろん、両者の協力も大切です。
 また、診断して治療してハイ終わり、ではなくて、その後の治療と学校生活とを、どのように両立させて、あるいは折り合いをつけていくのかも重要です。現時点では、本作は一話読み切り形式の色合いが強いため、そうした点が十分に描けているとはいえません。生徒のほぼ全員が何らかの病気や怪我を抱えている、という展開にならないためにも、牧野先生が今後どのように「保健室の先生」になっていくのかも今後の読みどころのひとつだと思います。
 やさしい*1言葉で描かれている医療マンガです。

*1:「優しい」という意味でもあり、「難しい」の対義語としての「やさしい」、という意味でもあります。