『僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活』(泉流星/新潮文庫)

僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活 (新潮文庫)

僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活 (新潮文庫)

 本書は、高機能自閉症の妻とその夫とが、互いの物の見方や感じ方のズレといった違いを克服しながら夫婦生活を営んでいく様子がユーモラスながらも簡明かつ率直な語り口で描かれているノンフィクション作品です。
 自閉症とされている妻の障害ですが、妻は人よりも言語能力が高いため、どちらかといえば「アスペルガー症候群」に近い分類らしいです。ひと言で自閉症といっても広汎性とか高機能とかいろいろありますし、加えて、発達障害アスペルガー症候群とかいった概念との区別も、人によって用語の使い方が違ったりもするので余計に難しかったりします。本書では、そうした普通(?)の人を「地球人」、それとは物の見方が違ったりする人を「異星人」と表現することで、互いの相互理解がどのように図られていくべきなのかを、夫婦生活というまさに現場の経験を通じて教えてくれる本です。
 そもそも、地球人と異星人とでは脳のつくりや働きが違います。それゆえに、本書では地球人と異星人という大胆なくくりが採用されているわけですが、いざ実際に本書を読んでみますと、「異星人」が抱えている特徴や問題が必ずしも「異星人」に限ったものではないということを思わずにはいられません。他人の立場から物事を考えることができなかったり注意力のピントが上手く調整できなかったり複数のことを同時並行的に行うことができなかったりなどなど。そうしたトラブルは、何も自閉系の方でなくても日々の生活において悩んでいる方も多々おられるかと思います。……私も含めて(笑)。
 そうなると、「地球人」と「異星人」の差というのも程度問題に過ぎないように思うのですが、それも度が過ぎるとやはり「異星人」ということになるのでしょう。そんな「異星人」が我が身をいつわり周囲に適応しながら「地球人」として生きていこうとする苦労と工夫には、「地球人」から見ても同調できる箇所が多々あろうかと思います。自閉症アスペルガー症候群の人々の価値観や生活についての理解、といった狭い意味にとどまらず、およそ人と人とがお互いを理解し合うにはどうすればよいのかを考える上での一助になる本だといえるでしょう。
 そんな本書ですが、実はノンフィクション作品でありながらミステリ読みにオススメしたい仕掛けが施されています。巻末の「著者あとがき」にて明かされる類いの仕掛けではあるのですが、これには正直驚きました。もっとも、カバー折り返しや夫まえがき、それに本文中の端々からのかすかな違和感などを思い起こせば、事前に気付いても良さそうなものではあります。脱帽です。ノンフィクションでミステリみたいなフェア/アンフェアを論じるのもどうかと思います。ですが、「異星人」にとって果たしてこの社会はフェアなものだといえるでしょうか? 本書の仕掛けにはそうした主張が込められているように思います。ノンフィクションなのにネタバレを気にしなければいけない、というのも奇妙なように思いますが、ノンフィクションとフィクションの境い目について考えさせられる作品です。