初野晴『千年ジュリエット』角川書店

千年ジュリエット

千年ジュリエット

 『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』『空想オルガン』に続く、「ハルチカシリーズ」第4弾です。
ハルチカシルーズ」とは、廃部寸前の吹奏楽部で、ブラバンの甲子園である「普門館」を目指す熱血脳味噌筋肉少女のフルート吹き・穂村千夏と、中性的で明晰な頭脳を持っているがとある秘密を持っているホルン吹き・上条春太の二人が、部員集めに奮闘しながら、様々な「事件」に出会う、という連作短編のシリーズです。
 「ハルチカシリーズ」は吹奏楽部を中心にした「青春」部分と、彼らにふりかかる難事件という「ミステリ」の絶妙な調和が心地よいシリーズですが、前巻では彼ら清水南高吹奏楽部の夏の大会を中心に据え、ミステリ要素よりも青春要素の方が強かったですが、この巻ではやや「ミステリ」寄りのお話が多いです。
 舞台は、彼ら清水南高の文化祭。ハリチカをはじめとする個性豊かなメンバーが色々な意味で所狭しと駆け回ります。
 「エデンの谷」では、新キャラが登場します。草壁先生の過去を知る謎の女性(通称スナフキン)。彼女の謎、草壁先生の謎、そして彼女の持つ、とある楽器に秘められた謎が最後に一つに収束していきます。オープニングを飾る心地よい佳品です。
 「失踪ヘビーロッカー」は、清水南高ブラックリストの一人、アメリカ民謡クラブの部長が登場。晴れの舞台、学校という「ライブ会場」に急いでタクシーで駆けつけた彼が引き返さざるを得なかった理由は?
 笑って、ちょっと泣ける。結末も含め、個人的には一番好きな短編です。
 「決闘戯曲」は、「退出ゲーム」に続き、演劇部が舞台。結末が書かれていない台本。本番まではあと数時間。ハルチカは台本や舞台設定に残された手がかりを頼りに、無事物語を完成させることができるか?というお話。米澤穂信愚者のエンドロール』を髣髴とさせる一品ですが、「演劇」という要素を存分に活かしています。
 そして表題作、「千年ジュリエット」。とある病院にて開かれる「ジュリエットの秘書」という集い。そして、清水南高に現れたとある人物との関係は・・・というお話。これまでの3作品を「裏から」たどるかのようなこの作品、見事なまでに4つの短編を「連作」としてつなぐ一方、これまでの3巻に登場してきた人物たちもカメオ出演する、なんとも贅沢な一品。
 儚いもの、儚いからこそ美しいもの。そして受け継いでいくもの。
 ラストシーンの美しさとともに、祭りの後の寂しさを感じてしまいました。
 本巻はわりとミステリ寄りでしたが、初野晴らしい医療ネタあり、バカミス風のネタあり、そして「謎」の解決に「人の思い」という極上のスパイスを振り掛ける「ハルチカシリーズ」の粋を堪能できました。「あわせ一本」でシリーズ最高傑作と位置づけても過言ではない一冊です。
初野晴『退出ゲーム』角川文庫 - 三軒茶屋 別館
初野晴『初恋ソムリエ』角川書店 - 三軒茶屋 別館
初野晴『空想オルガン』角川書店 - 三軒茶屋 別館