プチ「馬券師」たちの漫画。 甲斐谷忍『ウイナーズサークルへようこそ』

ウイナーズサークルへようこそ 1 (ヤングジャンプコミックス)

ウイナーズサークルへようこそ 1 (ヤングジャンプコミックス)

 『ONE OUTS』『ライアーゲーム』など、ギャンブルや心理戦を描く漫画に定評のある甲斐谷忍による、「競馬」を舞台としたお話です。
 これまで、「競馬」を舞台とした漫画としては、「競走馬たち」を描いたつの丸みどりのマキバオー』や、生産牧場での競走馬の育成を描く青春漫画であるゆうきまさみじゃじゃ馬グルーミン★UP!』など、「競馬そのもの」を描いていました。
 競馬という「ギャンブル」を描く漫画としては福本伸行銀と金』での一対決でありましたが、「競馬ファン」という「馬券を買う人々」を主人公に据えるというのは新しい切り口だと思います。
 主人公・山川七雄は漫画家を目指していた大学1年生(2浪して20歳)。漫画家の夢破れ、失意の彼にうらないしがおしえた「宝物をつかむ場所」とは競馬場のことだった。
 そこで知り合ったのは大学生たちの予想集団「ウイナーズサークル」。山川は個性豊かなウイナーズサークルのメンバーと競馬をやっていくうちに、知られざる才能に目覚めていく・・・というお話です。
 タイトルの「ウイナーズサークル」というのは本来の意味は競馬場にある優勝馬を表彰する区画のこと(Winner's Circle)ですが、ここでの「ウイナーズサークル」は、大学の「サークル」とかけています。
 そもそも、大学生が馬券を買っていいのかというツッコミがあるかもしれませんが、実は2005年1月の法改正により、成年なら誰でも買って良いことになりました。そういう意味では、現在は「ウイナーズサークル」のような競馬サークルも実際にあるかもしれませんね。
 この『ウイナーズサークルへようこそ』では、馬券を買う人々を中心に競馬という「ギャンブル」を描いています。「ギャンブラー」というほど鉄火場ではなく、「競馬ファン」というには純粋ではない。なんとも中途半端な存在である、あえていうなら「プチ馬券師」たちのお話。よくもまあこんな題材に目をつけたなぁと感心しました。
 とはいうものの、描かれている内容は競馬を知らない人でも楽しめるギャンブル要素満載。
 主人公・山川の持つ「特殊な力」(といってもオカルトではなく、なかなか納得いく能力です)をいかに「本人に気づかせず、自分たちが儲かるか」を考える「ウイナーズサークル」の悪巧みと、それに振り回されつつ彼ら彼女らと親交を深めていく天然主人公とのやりとりは、読者が天然主人公のボケっぷりに歯がゆさを感じるギリギリのところで適度なカタルシスを与えます。
 馬券の勝った負けたといっても所詮数万円が動く程度で、ある意味「お遊び」の範疇です。
 競馬ファンには「ギャンブル派」と「ロマン派」がいますが、いずれにしても過去のレースや予想などお酒を飲みながらワイのワイの言い合うひと時が一番楽しかったりします。
 ギャンブルや情報戦、知能戦の要素をうっすらまぶしながらも、そういった「競馬の楽しみ」をしっかりと描くところが好感が持てます。
 印象に残ったのはこのシーン。

 競走馬って 素質のない馬もいれば負けてばっかりの馬もいる
 でもどんな馬もひたむきに 毎日毎日トレーニングしてるじゃないですか
 ベニコさんに言われて 僕 思ったんです
 そんながんばりを見た神様が ときどきごほうびにキセキを起こしてくれる…それが万馬券なんだ…って
 万馬券男さんの応援の仕方ってね
「一番人気コケろー!!」とか
「一番人気タレろー!!」なんですよ
 でもね…僕
 がんばってる馬が失敗する事を祈る…ってあんまり楽しくないんです
 どうせ見るならがんばった馬がキセキを起こすのを祈って見てたいです
(P235)

 1巻では様々な予想スタイルのキャラたちの顔みせ兼、主人公との「つながり」を描くのに筆が割かれましたが、2巻以降、より「競馬を観ること」の面白さを描いてくれたらと期待します。

 競馬ファンには自信を持ってオススメする一冊です。