パオロ・マッツァリーノ『コドモダマシ』角川文庫

 『反社会学講座』『ツッコミ力』など、統計学社会学やいわゆる「一般常識」「社会の思い込み」に対し逆に統計を駆使することで笑いのネタに転化する、「データ漫談」(←フジモリ命名)の第一人者であるパオロ・マッツァリーノによるデータ漫談エッセイです。
 「なんで好き嫌いはいけないの?」「習字なんて何の役にも立たないのにどうしてやんなきゃなんないの?」と父親に素朴ながら鋭い質問をあびせる息子に、パパが様々なデータを引用しこね回し屁理屈で論破し返すというやりとりが、1話数ページと短いながらみっちりと詰まっています。
 たとえば、「なぜ若い日本人が海外で働こうとしないのか」というお題に対するやりとり。

「中国の若者が高い渡航費を貯めてまで日本に来て働きたがるのはなぜです?どうせ本国と同じ肉体労働や単純労働をするなら、稼ぎが何倍にもなる日本で働いた方がトクだと考えるからでしょう。がんばって稼いで故郷へ帰ればいい暮らしができます。これが、一旗あげるってことですよね」
「ああ。俺らが若い自分、田舎から東京へ出てきたのもそうだったよ。東京には仕事があって、がっぽり稼げる、ってね」
「つまり一旗あげるには、故郷より豊かな場所の存在が欠かせないってことですよね。でも日本が世界有数の豊かな国になっちゃったいま、日本の若者が単純労働や肉体労働で一旗あげられる場所がどこにあります?もう、そんな約束の地はないんです」(P167)

 やれ草食系だ、やれゆとりだとレッテルを貼るよりはよっぽど腑に落ちる「屁理屈」です。
 リテラシーという言葉を「つっこみ力」という言葉に転化した作者ならではの、ブラックながらも小気味よいやりとりです。
 親子のやり取りに笑ったり感心したりしながら、「常識」という殻にちょっとヒビを入れることが出来る良書だと思います。