『ひらけ駒! 4巻』(南Q太/モーニングKC)

ひらけ駒!(4) (モーニング KC)

ひらけ駒!(4) (モーニング KC)


将棋総合アプリ「i羽生将棋」*1
 今回は”『ひらけ駒!』で考えるゲーミフィケーション”といった内容でお送りしたいと思います。
 最近、ゲーミフィケーションという言葉をよく耳にするようになりました。とはいえ、ゲーミフィケーションの定義となると、私なりに調べてはみましたが、通説的なものにたどり着くことはできませんでした。まだまだ発展途上の概念だといえるでしょう。
 とはいえ、ググればそれなりに見つかるわけで、例えば、

ゲーミフィケーションとは、マーケティングの手法の一種で、ゲームが本来の目的ではないサービスにゲーム的要素を組み込むことで、ユーザーのモチベーションやロイヤリティを高めることである。
ゲーミフィケーションとは 「ゲーム化」 (Gamification): - IT用語辞典バイナリより

ゲームが持つプレイヤーを活性化させるノウハウを、ゲーム以外の領域に使うこと
ゲーミフィケーションとは何か? 概念の基本と現状 (1/2):MarkeZine(マーケジン)より

というような説明がなされています。いずれにしても、ゲームというものを肯定的に捉えた上で、それを日常生活にも積極的に活かそうというわけです。「ゲームは1日1時間」世代の私には隔世の感を覚えずにはいられません。確かに、ひと昔前に比べればゲームは身近で日常的で当たり前なものとなりました。それでも、ゲームという言葉が常に肯定的に用いられているわけではありません。例えば、野球(ベースボール)がマネーゲームと揶揄されることがあります。本来ゲームであるはずの野球を揶揄するのにゲームという言葉が用いられているわけですが、ここでゲームという言葉が持つ意味の違いは、ゲームを遊ぶべき者であるはず選手が遊ばれる存在になっていることを表わしているのだといえます。つまり、主体的に遊ぶのかそれとも受動的に遊ばれるのか、それがゲーム性の是非を分ける大きな要因なのだといえるでしょう。
 閑話休題です。ゲーミフィケーションには、ゲーム化とゲームによる交流という二つの側面があるように思います。将棋がゲームであることには異論がないと思われますが、将棋というゲームで勝ったり負けたりを繰り返して、連勝したら商品がもらえて昇段するというシステムもまたゲームだといえます。いろんなレベルと役割の人たちが将棋に関わり生活しています。そこに交流が生まれています。つまり、将棋というゲームの外側にあるメタゲームとしてのプレイヤーの物語が本書では宝たちを通じて描かれているといえます。
 『幸せな未来は「ゲーム」が創る』(ジェイン・マクゴニカル/早川書房*2という本があります。この本は、タイトルの通り「ゲームがより良い社会を作るため貢献する」という考えについて書かれています。第一部「なぜゲームは人を幸せにするのか」では、ゲームが人々にどんな感情を引き起こし現実の生活や人間関係にポジティブな効果を波及させているのか、ということが述べられています。続く第二部「現実を作り変える」では、家庭や学校、職場といった生活の場でのゲームデザインやテクノロジーの応用について、第三部「大規模ゲームはどのように世界を変えられるか」ではがん治療や気候変動抑止、貧困根絶といった世界的規模の課題を解決に普通の人々が参加するためにデザインされた10種のゲームが紹介されています。第二部と第三部がいわゆるゲーミフィケーションについての説明ということになるのでしょうが、そもそも論として第一部も重要です。
 優れたゲームが有する特性として、『幸せな〜』では”優れたゲームは、あなたのスキルのもっとも先端のところで相手をしてくれて、あのたのミスを誘う紙一重のところにいます。そしてあなたがミスするともう一度挑戦したい気にさせられます。そのことが、能力のぎりぎりで取り組むことに何より夢中になれる理由です――この状態をゲームデザイナーや心理学者は「フロー」と呼んでいます。”(『幸せな〜』p44より)と述べられています*3。『ひらけ駒!』で宝がぶち当たっている四段の壁ですが、そうしたフロー状態を生み出すものとして昇段システムが機能している例だといえます*4。こうしたフロー感を乗り越えることで、成功体験が得られ満足することができます。また、将棋というゲームが一種の共通言語となることで社会的なつながりも生まれます。また、『幸せな〜』ではチェスについて次のようなことが述べられています。

 チェスの可能性空間はかくも巨大で複雑であるため、ひとりの人間がそれを完全に理解し、探りつくすのは不可能です。多くのチェスプレイヤーがするように、生涯をその探究に費やしたとしても、です。(中略)
 単なる暇つぶし以上のものとしてチェスをするということは、この問題解決のネットワークの一部になるということです。大規模な協働活動に参加して、ひとりではどうてい理解できない複雑な可能性空間を熟知するということです。
(『幸せな〜』p443より)

 将棋も同じです。過去から未来へと紡がれる定跡というネットワークの変化と可能性は膨大で、ときに恐ろしさすら覚えますが、一方で、ネットワークの一員としての連帯感みたいなものを実感することができます。『幸せな〜』でいうところの”自分自身よりも何か大きなものの一部になる機会”(『幸せな〜』p77より)が得られるわけです。

将棋の力を 信じろ
将棋で先を読む要領で 深く 世界を読んでみろ
人類は一つ上のステージに行ける

(中略)
百年はかかるが 70億人 全人類が 「将棋を指す」
地球を81マスに 沈めてやる

ハチワンダイバー 20巻』(柴田ヨクサルヤングジャンプ・コミックス)p121〜124より

 ゲーミフィケーションが目指す未来は、案外、鬼将会が目指すものと同じなのかもしれませんね。
 以下、将棋ヲタ的補足的雑感です。


プロ棋士のブログ&Twitter紹介

 将棋のプロ棋士はブログやTwitterで情報発信されてる方がたくさんいます。本書に名前が出てくる棋士のブログとTwitterアカウントを紹介しておきます。
村中秀史六段 Twitter. It's what's happening. ブログ:マイペースなブログ
中村太地五段 Twitter. It's what's happening.
・佐藤慎一四段 ブログ:サトシンの将棋と私生活50−50日記
・門倉啓太四段 Twitter. It's what's happening.

p21の盤面


 後手玉は龍で王手をかけられている状態です。△同玉と取って大丈夫、というより逃げると詰んでしまうので怖いようでも取るしかありません。それで後手玉は詰みません。そして飛車を取ったことで先手玉には△2七飛▲1八玉△2九飛成▲同玉△3八金▲同玉△4七角▲2八玉△2七金▲3九玉△3八角成までの詰めろがかかっています。ゆえに受けるしかないのですが、先手は持ち駒がないので受けようがありません。すなわち、p21の盤面は後手の勝ちです。

富沢キック

ポンポン桂( - けい)とは、将棋の戦法で対四間飛車急戦のひとつ4五歩早仕掛け戦法の変化の一つ。古典定跡の中のいち戦形である。富沢幹雄八段が生前好んで指したことから富沢キックとも言われる。
ポンポン桂 - Wikipediaより

【関連】
『ひらけ駒! 1巻』将棋ヲタ的雑感 - 三軒茶屋 別館
『ひらけ駒! 2巻』(南Q太/モーニングKC) - 三軒茶屋 別館
『ひらけ駒! 3巻』(南Q太/モーニングKC) - 三軒茶屋 別館

幸せな未来は「ゲーム」が創る

幸せな未来は「ゲーム」が創る

ハチワンダイバー 20 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 20 (ヤングジャンプコミックス)

*1:【関連】サトシンの将棋と私生活50−50日記「i羽生将棋」

*2:【参考】幸せな未来は「ゲーム」が創る - 基本読書

*3:それにしても、将棋のフロー感というのは半端ないですよね(苦笑)。

*4:手合いが違いすぎると、「簡単に負けるとかえって何ともないわ。全然くやしくない……」(本書p117)という状態になります。