『ブラッド・ブラザー』(ジャック・カーリイ/文春文庫)

ブラッド・ブラザー (文春文庫)

ブラッド・ブラザー (文春文庫)

 兄は本人が異常であるだけではなく、他人の狂気を測定できるガイガー・カウンターだった。
(本書p35より)

【海外優秀本格ミステリ顕彰】最優秀作決定! - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
 本格ミステリ作家クラブにて、2000年から2009年までの10年間に翻訳された最も優れた海外の本格ミステリを選び、その功績を称える〈海外優秀本格ミステリ顕彰〉に、〈カーソン・ライダー・シリーズ〉2作目『デス・コレクターズ』が選ばれました。*1
 本書はそんな〈カーソン・ライダー・シリーズ〉の4作目に当たります。本書ではこれまで明かされることのなかったシリーズの根幹が明かされます。おそらく本書だけでもシリーズ全体の流れを把握することはできるでしょうし、単独でも十分に楽しむことはできます。ですが、ジェレミーとカーソンの兄弟のひと言では言い表せない関係性や、あるいは、本書では完全に裏方に回ってしまっているハリーとカーソンの信頼関係などは既刊にて存分に語られています。なので、順番はともかくとしてシリーズ全巻を読まれることを強くオススメします。2作目だけでなく1作目も犯人の動機が独創的で秀逸(?)なので、読んで損はないはずです。
 閑話休題です。アラバマ州モビール市警察の刑事カーソンは、大至急ニューヨーク行きの飛行機に乗るよう命令される。まるで状況が把握できていないカーソンを待っていたのは、彼がよく知る人物の惨殺死体だった。しかも、その被害者は、自分にもしものことがあったらカーソンに連絡がいくようにとメッセージを残していた。いったい何が起きているのか? しかも、被害者の足取りが確認できる空港のビデオカメラに映っていたのは被害者と、そしてアラバマの逸脱行動強制施設に収容されているはずの兄ジェレミー・リッジクリフだった!……というお話です。
 幾人もの女性を残虐に殺害した連続殺人犯として収容された兄と、名前を変えて刑事として生きる弟。カーソンはこれまでも猟奇殺人事件を解決するために、兄の能力を頼りにすることが度々ありました。まさに、”毒を以って毒を制す”です。そのジェレミーが脱獄した!? となれば、シリーズ読者にとっては、ある意味で待望の展開です。たとえそこに死屍累々の地獄絵図が待ち構えていることが明らかだとしても、です。過去に虐待を受けていた兄と弟。兄は弟を守るために父親を殺し、さらには連続女性殺人犯として収容されて脱獄。弟はそんな兄を捕まえるために兄の行動をトレースします。
 本書は、ジェレミーの視点も少し混ざっていますが、基本的には”僕”というカーソンの視点から語られるカーソンの物語です。にもかかわらず、本書は半分以上ジェレミーの物語となっています。きわめて魅力的でありながら恐ろしい人物であるジェレミーの人柄と知性。連続猟奇殺人の発生と相俟って、作中でのジェレミーの存在感は圧巻です。ただ、これだけだと典型的なサイコキラーものだと思われるかもしれません。しかし、物語は実に意外な展開を辿ることになります。
 いったい過去に何があったのか?というシリーズでもっとも気になる点が本書では踏み込んで語られています。ですが、過去をのんびり回想するような感傷に浸る余裕はありません。今起きている事件と、これから起きようとしている事件とにグイグイ引っ張られながら、やがて過去が現在と未来を追い抜きます。兄弟にしてマンハンター同士の駆け引きの果てに待ち受けている驚愕の真相。それは、本格ミステリという言葉から一義的に連想されるようなトリック的な意味では、必ずしも評価できるものではないでしょう。ですが、何が起きているのか?というホワットダニットを描いた物語としては圧倒的な面白さです。狂気と計算とが互いに引き立て合うことでスリルとサスペンスが生まれています。
 ちなみに、(ネタバレ伏字→)本書では9.11で死んだ爆弾探知犬の名前が物語の重要な鍵となっています。本書に限らず、アメリカのミステリで過去を回想する作品を書こうとすると、どうしても9.11前と後というものを多少なりとも書かないわけにはいかないのでしょう。そして、本書における犯人と真犯人との関係の構図にも、やはり9.11の影響を読み取ることができる、というのは決して深読みではないと思ってるのですが……やっぱり深読みかしら?(苦笑)(←ココまで)これからいったいどうなるのか? 今度のヒロインとは長続きするのか?(笑) 続きが気になるシリーズです。
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