『機械探偵クリク・ロボット』(カミ/ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

機械探偵クリク・ロボット〔ハヤカワ・ミステリ1837〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

機械探偵クリク・ロボット〔ハヤカワ・ミステリ1837〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 事件が起こると、クリク・ロボットは計算機としての優れた能力を発揮して、正確無比な方程式をたて、代数学的に謎を解く。その冷徹な推理力の前には解決できない謎はなかった。クリク・ロボットにとっては、この世に〈ミステリ〉というものは存在しないのである。
(本書p38より)

 四角い頭に鋼鉄の身体、チェックのスーツに小粋なチロリアン・ハットを着こなすロボット探偵クリク・ロボットと、ロボット探偵を発明したジュール・アルキメデス博士のコンビが事件を解決するユーモアミステリです。何しろ、額にナイフが刺さった被害者が話し出すという冒頭からして意味不明といいますかぶっ飛び過ぎてて真面目に読む気が失せます(笑)。そんな本書には「五つの館の謎」と「パンテオンの誘拐事件」の2つの中編が収録されています。
 〈手がかりキャプチャー〉、〈推理バルブ〉、〈仮説コック〉、〈短絡推理発見センサー〉、〈思考推進プロペラ〉、〈論理タンク〉、〈誤解ストッパー〉、〈事実コンデンサー〉、〈情報混乱防止コイル〉、〈真相濾過フィルター〉、〈自動式指紋レコーダー〉、〈解読ピストン〉といった機能を装備しているロボット、ということでミステリ読みならワクワクすること必至な設定かと思われます。ただ、こうした装備が実際の推理の場面において有為的に機能しているような説明が本文中には皆無です。なので、過度な期待は禁物です。はっきり言ってミステリしては極めてゆるいです。ユルミスでバカミスです。こんな機能があったりするので、事件の謎解きもロボットが勝手にやってしまうので推理の余地がないかと思いきや、このロボット、どういうわけか真相を暗号によって伝えてきます。なので、読者には暗号を解くという謎解きが与えられることになります。なんとも珍妙なミステリです。
 また、クリク・ロボットには推理機能の他にも〈類型映画フィルム・カメラ〉や〈首長潜望鏡〉、〈鼓膜式録音マイク〉といったいわゆる”探偵の七つ道具”てきな情報収集のためのツールも備わっています。そうしたツールを活用して事件を解決する冒険活劇としても本書は楽しめます(特に「パンテオンの誘拐事件」)。
 「14歳の世渡り術」というシリーズの中の一冊として『ロボットとの付き合い方、おしえます。』(瀬名秀明河出書房新社)という本があります。その本において、ロボットは三つのタイプに分類できるとされています。すなわち、(1)人間や社会の役に立つロボット。(2)人間を楽しませてくれるコミュニケーションロボットや、エンターテインメントロボット。(3)人間そのものを理解するためのロボット。という三つのタイプです(『ロボットとの付き合い方、おしえます。』p79〜80より)。
 本書に登場するクリク・ロボットは、犯罪事件を解決するという意味では(1)社会の役に立つロボットだといえますし、愛くるしい外見と会話機能もあることから(2)コミュニケーションロボットとしての側面も有しているといえます。ですが、本書全体の雰囲気、人間や社会、歴史や哲学についての皮肉や風刺、ユーモアといったものを鑑みると、本質的には(3)人間そのものを理解するためのロボットとしてクリク・ロボットは存在しているのだといえると思います。

ロボットとの付き合い方、おしえます。 (14歳の世渡り術)

ロボットとの付き合い方、おしえます。 (14歳の世渡り術)