『アクセル・ワールド〈7〉災禍の鎧』(川原礫/電撃文庫)

アクセル・ワールド〈7〉災禍の鎧 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈7〉災禍の鎧 (電撃文庫)

 最初は割と単純な近未来格闘ゲームだと思ってた《ブレイン・バースト》ですが、いろいろな設定や裏技ともいうべき「心意システム」が明らかになったりして随分と複雑なゲームであることがわかってきました。そんなこともあってか、とうとう作者自身がwikiを開設されました。ぶっちゃけゲーム性の維持に不安もありますし……。
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 別に推理ゲームをやっているわけではないので、とりあえずクリアしてから後のことは考えるというのも立派なルートだと思いますし、ってゆーか私としてはそちらのほうが好みだったりしますが、《ブレイン・バースト》というゲームが単にネット内のみならず現実世界にも影響を及ぼすものであるだけに、いろいろ寄り道せざるを得ないのも致し方ないことではあるのでしょう。
 とはいえ、単純なクリアだけがゲームの目的であるとは限りません。それは何もゲーム設計者の意図に限らず、プレイヤーの心のありようにも関わってきます。表向きはステージクリアが目的のはずのゲームでなぜか1対1の対戦バトルで盛り上がることもあれば、ボスキャラ打倒そっちのけで自キャラの育成に走るという楽しみ方もあったりしますが、プレイヤーがそれでよいと思っていればそれでよいわけです。要は何のためにゲームをしているのかを個々人が「納得」することが大切です。
 本書で問題となっている《ISSキット》、あるいはハルユキが苦しめられている《クロム・ディザスター》の力にしても、能力強化という側面に着目すれば、それを使って勝って勝って勝ちまくって一直線にゲームクリアを目指すというのもあながち間違った方法だとはいえないでしょう。それを何ゆえ拒むのかといえば、呪いのアイテム的な不都合が多々生じるという面も確かにありますが、何よりもそれでは「納得」できないからでしょう。
 将棋のネット対局において「ソフト指し」と呼ばれる指し方があります。将棋ソフトを利用しながら指すことをそのように呼びますが、一般に自分の実力以上の手を指すことができる指し方ではありますが、「将棋倶楽部24」などネット対局場では禁止されています*1。禁止されている理由としては、まず「フェアでない」というのもありますし、単にソフト相手に指すのであれば自分のPC相手に指せばよいのであって道場にくるからには人と指せなくては意味がない、というのもあります。ただ、そうしたソフトの利用もところを変えれば立派に認められている指し方で、例えばチェスでは「アドバンスド・チェス」というソフトと人間の協働を認めたルールで行われる対局があります。
 無駄話が長くなりましたが(汗)、要するに何のために戦うのかという内省的な思考と、どういったルールで戦われるべきなのかというフェアネスの問題への問い掛けが《ブレイン・バースト》ひいては『アクセル・ワールド』には必要で、本書後半で描かれている戦いにはそうした意味がある、ということなのだと思うのです。
 本書の感想を普通に書けば「ハルユキこのリア充め」とか「友情熱いな」とかになると思われますが、私としては本シリーズは「ゲームとは何か?」という作者の問題意識を信じて読むことにしているので、上記のようなとりとめもないことを考えてみましたとさ。
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