『ヘレンesp 2』(木々津克久/少年チャンピオン・コミックス)

ヘレンesp 2 (少年チャンピオン・コミックス)

ヘレンesp 2 (少年チャンピオン・コミックス)

見える、聞こえる。
誰にも届かない声と、誰も知らない世界が――。
(本書裏表紙より。)

 あれれ?終わっちゃったの?残念……。
 私たちは目や耳や鼻といった感覚器を通して様々な刺激や情報を知覚しています。そうした知覚によって私たちが認識する世界は作られています。しかも、そうした知覚は個々人によって異なります。なので、私たちが住んでいる現実世界というものはそれぞれに異なるものであるということがいえます。そんな世界観のズレというものが描かれている、というか描かざるを得ないのが、三重苦というハンデを抱えているヘレンの物語です。
 そんなズレの間にファンタジー的な要素が入り込むことでヘレンespの物語は独特の世界観を作り出していますが、そのバランスは極めて微妙で危ういものです。その危うさはヘレンの生き様についてもいえますし物語自体についてもいえます。
 ヘレンの存在は、現実の世界の住人にとってはファンタジーな存在に見えることがありますし、その反対に、ファンタジーな存在にとっては現実世界の住人に見えることがあります。ヘレンは異なる存在同士の世界観を跨いで、ときにその世界観に変化をもたらします。その結果、善意が悪意に転じることもあれば、悪意が善意に転じることもあります。しかしながら、三重苦のへレン自身にはそのことに気付けないこともままあって、そんなときに読者としてはどうしても危うさを感じずにはいらませんし、そのままならなさに切ない気分にさせられることもあります。
 ただ、そんなファンタジー要素があまりに過度になりすぎますと、三重苦という主人公の特徴の意義がなくなってしまいます。かといって、三重苦としての現実を描こうとするときにおそらくは立ちはだかるであろうものが、「障害者を描く」ということの難しさや限界だと思うのです。本作は一話完結形式のお話ですから、続けようと思えばまだまだ続けられるように思います。それなのに、そもそも不定期連載だったのにわざわざ完結と銘打って物語を終わらせてしまったのは、その辺りの限界にぶつかってしまったからなのではないのかなぁと。まあ、これは私の勝手な想像ですけどね(苦笑)。ただ、それにしては最終話がいまいちなのが名残惜しくて、最後はやはりヘレン自身のお話であって欲しかったです……。
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