『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』(伊藤ヒロ/一迅社文庫)

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

魔法少女ニ変身ヲセシ者ハ、二年以下ノ懲役又ハ二五〇万円以下ノ罰金若シクハ科料ニ処スル。
呪文ノ詠唱又ハ魔法ノ行使、若シクハジュエル!・虹色ハートフル・リピュアーヲ含ム一切ノ魔法攻撃ヲセシ者モ、同様トスル。
*1
(本書p46〜47より。)

 魔法少女禁止法の制定から10年。魔法少女としての活動の一切が禁止され魔法少女の多くが引退していった中、いまだに魔法少女としての活動を続ける者がいた。彼女の名は、おしゃれ天使スウィート☆ベリー(24歳)。法に逆らい活動を続ける最後の魔法少女。そして彼女に師事する”魔法少女の弟子”サクラ。魔法少女としての活動を続ける二人のもとに、ある日衝撃のニュースが飛び込んでくる。かつて黄金の愛のアイドル戦士キラキラゴールドとして活動していた人気ファッションモデル金城マリーが何者かに殺されたというのだ。さっそく捜査を始めるベリーとサクラ。それは一つの『はじまり』であり、同時に一つの『ヒント』でもあった……といったお話です。
 第二章の章題が「ウィッチメン」で、さらにあとがきにて作者自らが告白しているように、本書は『ウォッチメン』と似た感じのストーリーです。というか、一部そのまんまです(笑)。『ウォッチメン』とは元々はアメコミで、あいにく私は映画版(参考:ウォッチメン (映画) - Wikipedia)しか観たことはありませんがそれは作者も同じみたいで、なので、ロールシャッハがベリーでオジマンディアスがキラキラアクアでDr.マンハッタンがエターナル・ブリリアント・プリンセスだな、といった照らし合わせをするだけでも十分楽しいです。
 その一方で、本書は魔法少女もののパロディでもあります。なので、登場する魔法少女たちにはセーラームーンレイアースといった元ネタが存在します。私はそっち方面にはとんと疎いのですが、そちら方面の知識と照らし合わせても楽しく読めるであろうことは想像に難くありません。一見するとマニアックな一発ネタのように思える本書ですが、実は意外と射程範囲が広いのかもしれません。
 アメコミから魔法少女ものに設定が変わってしまったために失われてしまったものがあります。それは、アメリカの「世界の警察」としての活動に対する皮肉、もしくはパロディとしての作品価値です。なので、本音をいいますと私は本書よりも『ウォッチメン』の方が好きです。本書を読んで『ウォッチメン』に興味を持った方がおられましたら映画版『ウォッチメン』を是非ご覧になって欲しいです。
 とはいえ、本書には本書の価値・面白さがあります。魔法少女たちを現実の世界に暮らす存在として肉付けすることによって生じる悲しい運命とシュールな設定は読み応えがあります。さらに、いわゆる魔法少女ものを1960年代に生まれた「第一世代」、1980年代に入って急速にその数を増やした「第二世代」、武闘派の時代に突入した「第三世代」と分類した上で、「戦わない魔法少女」から「戦う魔法少女」へという魔法少女ものの一連の変化・流れのメタ的はなかなか面白いです。その上で、本書の世界は魔法少女たちが戦うことを否定されたステージとして位置付けられています。こうした世界にあって、果たして魔法少女魔法少女としての存在意義をどのように見出していくのか。あるいは消えていく存在として描かれていくのか。それは、魔法少女のみならず、多くのフィクションが抱える共通のテーマだといえるでしょう。まだまだ回収されていない伏線もありますし続きがとても楽しみです。

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*1:ちなみに、この規定は魔法少女に変身することや魔法を使うことだけに対する刑罰です。本書p47によれば、普通の犯罪に対する刑罰にプラス二年といえば分かりやすいだろうか、と述べられています。つまり、人間を魔法で攻撃すれば殺人、傷害(本書の”障害”は誤字ですね)、暴行罪にプラス本規定の罰則が加算されるとのことです(法律的にいえば併合罪ということかしら?)。今時カタカナを使った法文が制定されることなんてあるはずないですが(笑)、設定として、こうした法律はとても面白いと思います。