『メリー殺しマス』(コリン・ホルト・ソーヤー/創元推理文庫)

メリー殺しマス (創元推理文庫)

メリー殺しマス (創元推理文庫)

 高級老人ホーム〈海の上のカムデン騒動記〉シリーズ第6弾です。……が、タイトルに全力で釣られて既刊を無視して本書だけ読んだことを白状します。だって『メリー殺しマス』ですよ。
 ちなみに、原題は『HO-HO HOMICIDE』でやはり無理がある訳題だと思いますし、いくらタイトルで目立ちたいからといってここまでやりますか、とも思いますが、内容的にはそんなに間違ってるわけでもないですし、大らかな気持ちでネタにすることにしました(笑)。
 〈海の上のカムデン〉もクリスマス・シーズンとなれば当然様々な準備を行なうわけですが、その幕開けであるツリーの飾り付けの日に、ロビーの大ツリーの下から入居者の死体が見つかります。病死か事故死か他殺かも分からない状況ですが、他殺と決め付けたアンジェラとキャレドニアのお馴染みのコンビは、他の事件で大忙しのマーティネス警部補の協力依頼を自分たちの都合のいいように解釈して大々的に捜査を開始するが……といったお話です。
 いわゆるコージー・ミステリと呼ばれるジャンルがありますが、本書はまさにそんな作品です。

・探偵役が警察官、私立探偵などの職業的捜査官ではなく素人であること
・容疑者が極めて狭い範囲のコミュニティに属している
・暴力表現を極力排除していること
コージー・ミステリ - Wikipediaより)

 殺人という陰惨な事件を”出汁”にしてコミカルなストーリーが描かれるのがコージーの特徴ですが、チョコレートは苦味があるからこそ甘味が楽しめるわけですが、コージーにおける殺人事件についてもそれと同じことがいえるでしょう。
 老人ホームという病死や事故死、自然死が当たり前に存在するコミュニティにとって、殺人事件は興味津々な死でです。なので、アンジェラとキャレドニアにとってツリーの下にあった死体はまさにクリスマス・プレゼントに他なりません。そんな二人の勝手に騒々しく捜査をします。それは周囲には迷惑で警部補もやきもきさせるものです。おまけにアンジェラとキャレドニアはお世辞にも性格がいいとはいえません。思い込みも我も強くて騒動ばかり引き起こしてます。それでもどこか憎めなくてシリーズが順調に刊行されているのは、女性目線や老人目線といった弱者視線が思いやりとか気配りとかではなくざっくばらんに描かれていて、そこに共感が得られているからだと思います。
 捜査自体はコージーらしくドタバタ喜劇ですが、真相が明らかになったあとのの事件解決には、クリスマスという時節を背景とした苦味の揺り返してきます。決して甘いままでは終わらないしみじみとしたクリスマス・ストーリーとして独特の余韻を残します。とはいえ、私はタイトルに釣られて読みましたが(笑)、おそらくは普通に順番どおりシリーズを読んだ方がいいと思いますよ(←当たり前だ)。
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