『古城駅の奥の奥』(山口雅也/講談社ノベルス)

古城駅の奥の奥 (講談社ノベルス)

古城駅の奥の奥 (講談社ノベルス)

 本書は、ミステリーランド叢書の一冊『ステーションの奥の奥』が加筆・改稿・改題の上、東京駅の詳細な平面図が加えられたものです。本来ならミステリーランド版と比較すればいろいろと面白いのかもしれませんが、あいにく私はミステリーランド版は未読未入手なのであしからず(トホホ)。
 主人公の陽太は小学六年生ですが、「自分の将来」というテーマの作文に”吸血鬼になりたい”と書いて学校の先生と両親を困らせてしまいます。小学生が抱く将来のイメージがどんなものなのか私には判じかねますが、それでもやはり吸血鬼というのは珍しいと思うのです。まあそれはそれで、お話の導入としての必要性、あるいはそのキャラクタの個性として構わないと思うのですが、それでいて主人公の考え方とかは割りと普通で、のっけから身構えさせられたにもかかわらず拍子抜けの感は正直否めませんでした。
 そんな主人公の理解者として陽太を助けてくれるのが、やはりどこか変わったところのある叔父の夜之介。夏休みの宿題として、現在改築中の東京駅の研究をテーマに選んだ二人は、関係者以外立ち入り禁止の通路を探検しますが、そこで血まみれの切断された死体を発見してしまいます。さらに、宿泊していたステーションホテルの一室では密室殺人事件が。困った陽太は、同級生で”名探偵になりたい”と作文に書いた女の子・留美花に相談するが……といったお話です。
 「かつて子どもだったあなた(大人)と少年少女のための」本。さらに、「吸血鬼」と「名探偵」。ホラーとミステリが組み合わさった作品ですが、あまりにお題を意識し過ぎたためか、大人向けとしても子供向けとしても、ホラーとしてもミステリとしても、どうにも中途半端な作品になってしまっています。ミステリーランド叢書であればそれでもよいのかもしれませんが……。ホラーとしてイマイチなのはよいのですが、ミステリとしてイマイチなのはやはり致命的だと思います。そういうお話であればもっと前にそういう条件を明示してくれないと困るわけですが、しかしそれだと簡単すぎるわけで、こんなことならいっそのこと少年少女を置き去りにしたいつもの山口雅也の作風の方がよかったのではないでしょうか(苦笑)。
 ただ、東京駅という舞台の描かれ方は作者のこだわりも感じられて良かったと思います。いわれてみれば東京駅は立派な迷宮です(私のような方向オンチには特に)。さらに古い歴史もありますし、その佇まいには西洋のお城にも似た趣きがあります。吸血鬼のお話の舞台として意外ともってこいでしょう。また、日頃仕事で東京駅を利用している大人にとっても、これまでとは違った視点で東京駅というものを見ることができます。東京駅を舞台としたお話という意味では広くオススメできる作品かもしれませんね(笑)。