『チャーリー退場』(アレックス・アトキンスン/創元推理文庫)

チャーリー退場 (創元推理文庫)

チャーリー退場 (創元推理文庫)


絶版本を投票で復刊!

 昨年演劇用のナイフが本物にすり替えられていたというニュースに触れまして、それで演劇の進行がトリックに用いられているミステリ*1というのに少々興味が沸いたので調べてみたら検索網に引っかかったのが本書です。
 本書の場合はナイフによる刺殺ではなくて毒殺です。その夜の舞台をすべて終えた楽屋にて毒殺されたチャーリーの遺体は見つかりました。楽屋には舞台を終えた後に彼がいつも飲むウィスキーのグラスなどが発見されたことから、捜査当初は上演終了からカーテンコールの間までにチャーリーの楽屋に入ることができた人物が容疑者だと考えられてきました。ところが……。
 劇場の関係者全員が容疑者なので登場人物の数は多めですが、”配役”の書き分けは明確で、舞台の裏側の様子や役者の心情や行動原理などが臨場感たっぷりに描かれています。
 それでいて真犯人特定の手順は簡潔にして明快です。一見手探り状態に見える捜査の中にあって、ファーニス主任警部は捜査の序盤から何か手がかりをつかんでいるらしきことを仄めかします。もちろんそれが何なのかは最後の最後にならないと教えてくれませんが、そうした興味で読者を巧みにひきつけながら、事件の捜査と演劇の準備とが平行して行なわれていきます。
 そして迎えることになる悲劇の翌日に開かれる舞台と、ついに明らかになる真実。解説でも指摘されていますが、ミステリと演劇との一体化によって生まれるグルーヴ感こそ本書の一番の読みどころです。事件発生から解決までが一日にまとめられているその構成の見事さは傑作と呼ぶに相応しい出来栄えです。
 すでに出版社在庫切れになっちゃってますがオススメです。古書店などで見かけましたら是非。
【参考】東京創元社|本の話:幻の本格ミステリ、復活す!アレックス・アトキンスン『チャーリー退場』

*1:昨年読んだ本に『トスカの接吻』がありますが、こちらも演劇ミステリの傑作としてオススメです。