『骸の爪』(道尾秀介/幻冬舎ノベルス)

骸(むくろ)の爪 (GENTOSHA NOVELS)

骸(むくろ)の爪 (GENTOSHA NOVELS)

 本書は、デビュー作『背の目』と同じく、ホラー作家と探偵とその助手の三人組が登場するシリーズものの2作目です。
 前作がSFミステリぽかった*1ので、今回は予め心の準備をして読み始めたのですが(笑)、なんと今回は至極真っ当なミステリでした。私自身の嗜好的にはそちらの方が好みではありますが、せっかくの覚悟が台無しになったのがちょっと残念です(苦笑)。ただ、良くも悪くもそうしたSF的要素がシリーズとしての柱となる要素だと思っていただけに、拍子抜けの感は正直否めませんでした。
 ホラー作家の道尾が取材のために訪れた仏像の工房・瑞祥房。道尾はそこで一晩過ごすことになるが奇妙な現象を目撃する。しかも翌日には仏師が一人消息を絶っていた。道尾は心霊現象に興味を持つ友人の探偵・真備と助手の凛を連れて再び瑞祥房を訪れるが、またもや仏師が一人、消えてしまった。工房の天井に謎の血痕を残して。はたして、仏の工房でいったい何が起こっているのか? というようなお話です。
 過去に何があったのか。今、何が起きているのか? それはどのようにして行なわれたのか? そして、誰の手によって行なわれたのか?
 本書は、そうした幾層もの謎解きが一気に行なわれます。張り巡らされていた伏線が回収されて真相が明らかにされていく過程は見事なものです。反面、そこには、例えば三段論法にみられるような、段階を踏んでいく面白さというのに今ひとつ欠けています。そういうのは読み手が自分の脳内で補完して吟味するのがミステリ読みとしての醍醐味ではないのか? といわれれば、それはその通りでしょう。ただ、それにしては肝心の真相がそれほど意外なものではないというのがネックです。つまり、理論抜きでも犯人が腑に落ちちゃうんですよね(コラコラ)。そのため、伏線が端整に積み重ねられた良質なミステリであるにもかかわらず、印象のいまいち薄いものになってしまっているのだと思います。
 ミステリが好きな方には佳品としてオススメできますが、そうでない方には無理にはオススメできない微妙な一冊です。
 なお、作中に殺人事件の時効が15年であるかのようなセリフがありますが、平成16年の法改正によって殺人事件の公訴時効は25年になりました。蛇足ではありますが念のため付言しておきます。
【関連】『背の眼 上/下』(道尾秀介/幻冬舎文庫) - 三軒茶屋 別館

*1:別にSFミステリでも構わないのですが、論理の制約に無頓着なのはミステリとして少々困ります。