『ハーフボイルド・ワンダーガール』(早狩武志/一迅社文庫)

ハーフボイルド・ワンダーガール (一迅社文庫)

ハーフボイルド・ワンダーガール (一迅社文庫)

 学園ものでミステリとなりますと、殺人事件にしろ日常の謎にしろ、とにかく摩訶不思議な謎を解き明かすのが一般的なものでしょう。ところが本書の場合には、覚えもないのに子供ができたから責任取ってくれと迫られた少年の依頼で本当の父親を見つけるという、非常に夢のない現実的ながらも切実な問題の解決がテーマとなっています。なので、本書で探偵役を務める少女の役割も、謎解き役というよりはむしろハードボイルドもののような私立探偵に近くて、実にタイトルどおりの内容になっています。
 しかも、父親探しというのも確かに謎ではありますが、本当の父親が誰か? というのは妊娠している少女は当然知っているわけで、しかも真相といっても読者的にはほぼ丸分かりの簡単なものです。なので、取り立てて謎として騒ぐようなものではありません。むしろ、明々白々な真相をわざわざ回避して主人公とヒロインとの間のイベントをこなしてフラグを立てていくといった迂遠なストーリー展開にはいらいらに近いもどかしさを覚えるのですが(苦笑)、そのもどかしさにこそ本書の価値があるのだと思います。本書には特権的な名探偵など不要です。探偵役のキャラクターがぶれなくては本書のストーリーは面白くもなんともないでしょう。
 ミステリというジャンル的枠組みは、可能性の検証の大義によって理屈と理屈とをすり合わせて登場人物たちが会話のきっかけを得るための方便に過ぎません。ですが、それで良いのです。妊娠という事実を軸とした男女の恋愛間の違い、子供を産むということ、親になること。突然の身内の死。進路への悩み。親との軋轢。そんな思春期特有の臭いがいっぱいに詰まっています。つまり、本書はミステリという形式を見事なまでに出汁にした、こっ恥ずかしいくらいにど直球な青春恋愛小説なのです。ミステリ読みとしてはほんのちょっとだけイラッとしないでもありませんが(笑)、まあこれはこれで良い読み物だったと思います。
 ちなみに、あとがきによれば作者の本職はPCゲームのシナリオライターとのことですが、PCゲームについて、

 小説とは違った自由の許された世界ですので、自他の作品共々、ぜひ一度遊んでいただきたいのですが(残念ながら玉石混淆なのは他の表現と一緒です)、一方でやはり制約もあります。商品単価が比較的高額なため、どうしても分かりやすい満足感が要求されるのです。
(本書p250より)

と述べています。小説を書く意味としてそういうのもあるのかと非常に興味深く思いました。