『ベルベットビースト』(ジャック・ヨーヴィル/HJ文庫G)

ウォーハンマーノベル ベルベットビースト (HJ文庫G)

ウォーハンマーノベル ベルベットビースト (HJ文庫G)

 いやー笑った笑った。
なんというプロットの使い回し。
 これはさすがに駄目でしょ(笑)。
 いやね、面白くないわけではないんですよ。本書はジュヌヴィエーヴシリーズの3冊目として刊行されていますが、実際には彼女はほんのチョイ役です。ってか、この程度ならわざわざ登場させなくてもよかったでしょう。これまでとは異なるキャラクタが主役級を勤めてはいますが、でもシリーズものとしての関連性はあります。
 アルトドルフ市街で発生した娼婦ばかりを狙った連続猟奇殺人事件。明らかに”切り裂きジャック”がモチーフとなっている事件です。捜査員たちが”獣(ビースト)”と呼ばれるこの事件の犯人を探す一方で、煽動家が”獣”の正体を貴族と決めつけて煽ることで民衆の不安と不満をかき立てて暴動を起こそうとします。”獣”事件を通じて、殺人事件の真相だけでなく、貴族制度の欠陥、貧富の格差、女性の地位といった社会の矛盾といったものまで語られます。ウォーハンマーの世界を現代社会の比喩へと巧みに転化させています。登場するキャラクタも魅力的ですし、彼らの交わす会話も読んでてとても楽しいです。それに、前巻『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』とクロスしている箇所もたくさんありますから、シリーズの全体像を把握するためには読まないわけにはいかないでしょう。
 ただ、キム・ニューマン*1の名前で発表している『ドラキュラ紀元』とプロットがほとんど同じというのが酷すぎます(苦笑)。いや、もちろん大枠の世界観とかは違いますし、そっくりそのままではありません。でも、”切り裂きジャック”をモチーフにしつつ社会矛盾を描き出したその構成はほとんど同じです。登場人物についても両者を比較するとある程度の対応関係を見出せます。さらにいうと、作品としての完成度は『ドラキュラ紀元』の方が頭ひとつ上です。巻末の訳者あとがきによりますと、本書と『紀元』はほぼ同時期に書かれたもののようですが、作品としての出来を比べてみますと『紀元』の下書きが本書のように思えてなりません(もっとも、”切り裂きジャック”である犯人の人物像は『紀元』のそれよりは本書の方が個人的には好みですが……)。
 まあ、現実には『紀元』を始めとするドラキュラ三部作は出版社品切れで入手困難なので本書の価値がそれで減じるということはないのでしょうが、両方持ってる方は読み比べて相違点を探してみるのも一興かと思います。
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ドラキュラ紀元 (創元推理文庫)

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