飴屋法水『キミは珍獣(ケダモノ)と暮らせるか?』文春文庫PLUS

キミは珍獣(ゲダモノ)と暮らせるか? (文春文庫PLUS)

キミは珍獣(ゲダモノ)と暮らせるか? (文春文庫PLUS)

 フジモリは不勉強なものでこの本を読むまで著者を知りませんでしたが、演出家・美術家としては有名な方のようです。
【参考】飴屋法水:wikipedia
 とはいうもののこの本はそちらの活動のことは一切書かれておりません。
 演出活動・芸術活動の傍ら「動物堂」という「アニマルショップ」(ペットショップではない)を経営していた著者が、自身の経験を踏まえ「珍獣」を飼う際の心構えを説いた本です。
 本の内容は、いわゆる「ペットブーム」便乗本とは一線を画します。著者は「はじめに」で、「珍獣を飼うこと」、ひいては「動物を飼うこと」の現実を読者に突きつけます。

普通の店じゃあまり飼ってないような動物には、それなりの理由があるということだ。そして珍獣を珍獣たらしめている理由とは、決して「希少価値」などというポジティブな理由であることよりも、むしろ駄獣だったり、難獣だったり弱獣だったり猛獣だったり臭獣だったりであることが多いという「現実」をよーく確認していただけたでしょうか?(p19)

 動物に対しては、それこそ「人一人育てる覚悟」であたる必要があり、嫌になったり飽きたからといってむやみに捨てたり殺したりできるものではありません。一瞬の「飼いたい」という衝動がその動物の一生を左右するわけです。
 この本では、さまざまな「珍獣」を「飼う」際の注意点や、比較的「飼いやすい」珍獣の紹介がされています。「動物って飼うの大変だなあ」と思う一方、作者の巧みな語り口に引き込まれ、おもわず「動物飼いたいなあ」と二律背反な感情を持ってしまいます。
 本書自体は10年前に書かれており、サイテス(いわゆるワシントン条約)など年代を感じさせる記述もありますが、書かれている内容は劣化しないどころか重みを増しています。例に出すまでも無く、「ファッションとして飼われ」、捨てられた動物たちによる「野良ペット」化は生態系に大きな影響を与えており、重要な社会問題となっています。動物を飼うことはひいては自然と向き合うことであり、いわゆる「趣味」とは全く異なるものです。

 自分が勝手に抱いた幻想の尻ぬぐいは自分でする。(p52)
 キミがこれから飼うのは映画の中の架空の動物ではなく、現実の動物であるから。(p52〜3)

 長い間動物と接していたからこその重みのある言葉です。
 そして、読み終わったあとなぜ著者が「ペットショップ」ではなく「アニマルショップ」という名称を使っているかが理解できるかと思います。
 動物を飼っている人にも、飼いたいと思っている人にもオススメできる、「動物を飼うこと」について考えさせられる1冊です。



 余談ですが、

 私の大好きな少年ジャンプのマンガ、「ジョジョの奇妙な冒険」の悪役にならって、すべての動物を飼っている人々に向かってこう叫びたい。
「無駄!無駄!無駄!無駄!無駄〜っ!!」(p179)

 この一文で作者にすごく親近感が湧きました(笑)。