『鉄コミュニケイション』(秋山瑞人/電撃文庫)

鉄コミュニケイション (2) (電撃文庫)

鉄コミュニケイション (2) (電撃文庫)

明日になったら、もしその勇気が出たら、ちゃんと話をしてみようと思います。
ちゃんと話をすれば、きっと仲直りできると思います。


絶版本を投票で復刊!

 30年前の大戦争によって人類の大半が死滅した世界。コールドスリープの中で眠っていた13歳の少女ハルカは解凍される前の記憶はないし人類最後の生き残りかもしれないけれど、五体のロボットに守られながら元気に暮らしていました。そんなある日、ハルカが廃墟を探検していたら、自分とそっくりの姿をした女の子イーヴァと出会う。そんなお話です。原作に当たる漫画やアニメがあるみたいですが、そっちは未見です。小説だけしか知りませんが、とても面白かったです。
 ハルカを守っているロボットは、スパイクにアンジェラ、トリガー、リーヴス、クレリックの五体です。ロボットと人間が共に暮らしているとなると、ロボットに心があるのか? 魂があるのか? といったのが問題となりがちですが、本書に出てくるロボットたちは普通に人間(ハルカ)と接しています。アシモフロボット三原則(参考:Wikipedia)に縛られることなく、自らの意志でハルカを守り、ハルカとともに生活しています。ですから、そういう問題は本書では描かれていません。
 将棋とチェスは共通点の多いボードゲームです。王将とキングは同じ役割(取られたら負け)を担い、同じ動きをする駒です。また、飛車とルークは共に前後左右に、角とビショップは共に斜めにと共通の動きをする駒です。しかしながら、飛車はあくまでも将棋の盤上にあるべき駒ですし、ルークはチェスの盤上になければなりません。将棋とチェスでは、取った駒を使えるか否かという違いがあります。将棋では取った駒を使えるので、取った飛車は自分のものとして使うことができます。一方、チェスは使えないので相手のルークを自分のものとして使うことはできません。人と人との関係はゲームとは違います。しかし、何となしに暗黙の了解、ルールが生まれていくものです。それは相互理解の賜物かもしれませんし、人が孤独でいるためのものなのかもしれません。そうしたルールは、何としてでも守り通さなければならないときもあれば、その反対に、身を削ってでも破らなければならないときもあるでしょう。
 将棋やチェスの駒には、その価値を把握するための点数が付けられることがあります。そのとき、飛車やルークといった駒はその駒の性能・特性によって点数が付けられます。対して、王将とキングは無限大という数値で評価されることになりますが、それは二つの駒が強いからではありません。取られたら負けというルールだから仕方なく無限大とされるだけであって、盤上にあって最強の駒だからではありません。盤上にある王将とキングは、果たして自分自身の無限大という価値を誇りに思っているのでしょうか?
 1巻のあとがきで犬と人間の歴史について述べられていますが、こうした点に興味のある方には、古川日出男『ベルカ、吠えないのか?(プチ書評)』がオススメです。イヌ史という観点から人間と犬との関係を描いている『ベルカ〜』は、そうした問いに対しての解答としてピッタリだと思います。
 ちなみに、本書ではフォーメーションに”定石”という漢字があてられていますが、定石は囲碁用語ですし、チェスのオープニング(=序盤定跡)がモデルとなっている以上は”定跡”の字をあてて欲しかったです。傑作だと思うだけに惜しまれます。
【関連】将棋は”指す”、囲碁は”打つ”、じゃチェスは?