伊坂幸太郎『チルドレン』講談社

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

「俺たちは奇跡を起こすんだ」
独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々……。
何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。
ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。(裏表紙より)

 伊坂幸太郎の小説の特徴として、個性的な登場人物、物語と関係ない(たまに関係するけど)薀蓄、そして複数の物語が輻輳し最後にパズルのようにひとつの物語を形成するといった点が挙げられます。
 本作、「チルドレン」で言えば個性的な登場人物とは物語の重要人物(主人公ではない)、陣内です。銀行強盗の人質になりながらも「ギターが弾きたい」と駄々をこねたり、カツ上げされている子供をいきなりぶん殴ったり、失恋したあと公園で「時間が止まっている!」と叫んだり。彼の言動は、友人や後輩を振り回し、混乱させます。
 ジャンルとすれば「日常の謎」系なのでしょう。時系列は前後しますが、基本的には家裁調査官のお話です。陣内は謎を解きません。謎を解くのは彼の友人や後輩です。陣内はただただ状況を引っ掻き回すだけなのです。しかしながら彼は単なるトリックスターではありません。彼の人柄や行動がときに彼に関わる人の背中を押し、ときに事件を解決に導く鍵となるのです。
 「チルドレン」は5つの短編から構成されていますが、あるときは学生の頃の、あるときは家裁調査官の頃の陣内を中心に物語が紡がれます。それぞれの短編は物語として独立していますが、ほのかにつながりがあります。全ての短編を読み終えたときにあたかもひとつの物語だったかのように思えました。

「子供のことを英語でチャイルドと言うけれど、複数になるとチャイルズじゃなくて、チルドレンだろ。別物になるんだよ」(p115)

 短編なので読みやすく、息抜きに最適な一冊です。
【参考】『魔王』(伊坂幸太郎/講談社) - 三軒茶屋 別館
    三軒茶屋本館 アイヨシの書評 『重力ピエロ』
    三軒茶屋本館 アイヨシの書評 『アヒルと鴨のコインロッカー』