城平京『スパイラル ソードマスターの犯罪』エニックス

 『スパイラル 〜推理の絆〜』は、漫画は月刊少年ガンガンで平成11年9月号(1999年8月)から平成17年11月号(2005年10月)まで連載された、原作:城平京、作画:水野英多の推理漫画です。
 未読の方むけに簡単に説明しますと、抜群の推理力を持つ主人公・鳴海歩が失踪した兄の行方を捜しながら大きな陰謀に巻き込まれる、という物語です。連載当初は難事件を主人公の推理で解決するミステリー漫画でしたが、連載が進むにつれバトルがメインになっていきます。これは原作者である城平京氏が、「他誌で連載しているような本格推理漫画ではなく、ちょっと違った推理漫画にしたい」と連載当初から構想を持っていたそうです。(スパイラル完全解説本『LIFE IS SPIRAL』p23より)
 実際、バトルがメインとなる「ブレード・チルドレン編」以降も、対決の中に駆け引き・心理戦などの「推理」要素があり、また主人公が巻き込まれる陰謀の真相は巧みな伏線が張られています。最後の意外な展開はおそらく大半の読者が「え!そうだったのか!」と驚愕したことでしょう。
 原作を担当している城平京は第8回鮎川哲也賞最終候補作『名探偵に薔薇を』(創元推理文庫)にて長編ミステリデビューした推理小説家であり、今作であるノベライズも手がけています。小説版は漫画との登場人物は同じでありますが、直接的な繋がりは無く、漫画版未読者の方も楽しめる内容となっております。
 本作、『ソードマスターの犯罪』のあらすじは以下のとおりです。

新聞部部室にて、歩とひよのは、ひとりの少女から兄の仇を討つために力をかしてほしいと懇願される。
そして、歩は過去の殺人事件をめぐり剣の達人・黒峰キリコと対決することに…。
対決の行方は!?そして、事件の真相は!?

 冒頭で主人公・鳴海歩は剣の達人・黒峰キリコと対峙します。彼が撃ち込んでくる部位はどこか。面・喉(突き)・右小手・左小手・右胴・左胴。漫画でのパターン同様、鳴海歩はこの攻撃を「推理」して防御するわけなのですが、この「推理」が小説内で起こる「事件」と密接に結びついているのです。
 この対決の場面を作者は最も書きたかったそうで、「事件」の謎が分かれば必然的に「攻撃する部位」がわかる。バトルパートでの「駆け引き」と探偵パートでの事件を解く「推理」がうまく繋がっている構成は巧いな、と思いました。
 また、各章のタイトルも「剣鬼」「邪法剣」「孤剣は折れず」「最後の勝利者」「剣は知っていた」と時代小説家・柴田錬三郎の小説のタイトルがついていることも芸が細かいです。
 漫画のノベライズということで食わず嫌いの方もいらっしゃるかもしれませんが(フジモリもそうでした)、なかなかどうして、骨太な推理小説だと思いました。原作未読の方にもオススメできる作品です。
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