『ワンダービット 2巻』(島本和彦/MF文庫)

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 1990年代初頭の漫画の表現規制運動といっても、今の若い人にはいまいちピンとこないかもしれません。しかし、それは確かにありました。そんな当時の雰囲気を思い出させてくれるのが、本書『ワンダービット 2巻』です。
 この漫画、当時『ログイン』というパソコン雑誌で連載されてた読み切りの短編でして、毎回毎回バラエティに富んだ趣向・アイデアがとても楽しくて、それでいていかにも島本和彦らしい熱血節が炸裂する私のとても大好きな漫画です。そんな『ワンダービット』の2巻が今回MF文庫になって再刊されたわけですが、最初はアスキー出版局から1993年に刊行されてます。で、本書にはSF短編が15編収録されているのですが、そのうち3編(『さらばインサイダーケン』、『ジャスティスタント参上 前編・後編』)がこの表現規制を扱った内容になってます(さらに、『ダンシングシンドローム』もこの問題を間接的・婉曲的に扱ってると理解することもできます)。多彩なアイデアが売りの読み切り短編集にあって、短期間でのこうしたネタの重複・かぶりっぷりは異常です。そもそも島本和彦は正義と情熱の作家ですから、本来はこうした社会派的なネタは柄じゃありません(いや、もちろんどんどん書いてもらって構わないのですが)。それに、島本の芸風・作風からして普通に書いていれば表現規制を担うお偉方に好かれこそすれ槍玉に上がるようなことはまず考えられません。にもかかわらず、というか、だからこそ、というべきでしょうか。とにかく、その島本にして書かずにはいられなかった状況が当時は確かにあったのです。こうした作品はいわゆる島本作品とは一線を画したものになっていますが、だからこそ普段とは違った島本和彦を知ることができるという意味で、本書はファンの方なら必読だと思います。個人的には『さらばインサイダーケン』の露骨なまでに暑苦しくて強烈なメッセージ性がとても好きです。
 そうした社会派ネタはさておいても、本書は『ワンダービット』らしいSFネタもたっぷり収録されていて、これもまた面白いです。卵が先か鶏が先かというお馴染みのテーマを童話風なスタイルで描いた『はじまりとおわり』と、一変して少女漫画化風のタッチで描いた『プロフェッショナル・ラバーズ』の二編が特にお気に入りです。あなたのお気に入りは何ですか?
※収録作 『燃えるデオキシリボ核酸』『さらばインサイダーケン』『みっつの友情』『カリキュラマン』『体感時計』『ジャスティスタント参上!!(前編)』『ジャスティスタント参上!!(後編)』『ある戦い』『怪奇カメムシ男』『燃えないゴミの日に燃えろ!!』『タイムマシンの恐怖』『ジュラシック☆パニック』『ダンシングシンドローム』『はじまりとおわり』『プロフェッショナル・ラバーズ』
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