『3手1組プロの技』(片上大輔/マイコミ将棋BOOKS)

3手1組プロの技 (マイコミ将棋BOOKS)

3手1組プロの技 (マイコミ将棋BOOKS)

 本書は次の一手集の形式をとってはいますが、いくつかの特徴があります。
 まず、”次の一手”から、それに対して相手がこう来るから、自分はこう指す、といった3手の読みが重要視されている点です。確かに、単に次の一手を当てるだけなら当てずっぽうでも何とかなります。次の自分の手番での指し手まで考慮して初めて”読んだ”といえるでしょう。
 また、確かに”次の一手”集なのですが、ときには他の手も正解手として挙げられています。これは、次の一手という正解そのものよりも、その局面での考え方に主眼が置かれているからです。そうした考えは、各章ごとにまず総論として手筋の抽象的な説明があって、それから各論として各局面ごとに具体的な一手を考えていくという構成にも表れています。
 それと、次の一手問題として用意されている題材が、作られた問題ではなく全てプロの実際の対局から選ばれて出題されているというのも本書の大きな特色です。「プロの思考を言語化してみたい」(あとがきより)という思いからの発想でしょう。従いまして、単に”次の一手”集としてではなくて、プロの実戦の好局・好手とその解説集としての価値もあるのが本書の大きな魅力です。正直言って、私はこの特色に惹かれて本書を買いました。これからブログで将棋ネタを取り上げていく中で実に”使えそう”だと思ったからです(笑)。例えれば、普通の次の一手集は良くできた推理小説なのに対し本書は実際の殺人事件を題材にしたノンフィクションだといえます。もっとも、殺人事件の場合は実際にそれを試そうなどと思う人はまずいないでしょうから荒唐無稽な物語としての推理小説の面白さとノンフィクションとでは楽しみ方も自ずと違ってきます。一方、将棋の手筋の場合には、推理小説とは違ってやはり学んだ以上は実戦で指してみたいです。そうであるからにはより実戦向きな題材の方が好ましいわけですから、プロの実戦譜というのはまさに適題適所だと思います。
 本書は全3章から成り立ってます。

  • 第1章 3手1組歩の手筋
    • 歩をうまく使うコツ
    • 第1問〜第25問
  • 第2章 攻めの3手1組
    • 攻めのヒント
    • 第26問〜第63問
  • 第3章 しのぎの3手1組
    • しのぎのヒント
    • 第64問〜第86問

 手筋というのは、問題で覚えたとしてもいざ実戦となるとそのままの形で現れることはありません。その局面の中から手筋を発見する力がなくてはなりません。つまり応用力です。だからこそ、正解だけではなくて考え方に重点の置かれている本書は自分で指す場合にも役に立つであろうことはもちろん、プロの将棋を観戦する場合の参考にもなると思います。『最新戦法の話』を海外旅行における各国ごとの魅力を伝える本だとしたら、本書は具体的な観光スポットの楽しみ方を教えてくれるものだと言えるしょうか。いずれにしても、普通の次の一手問題集よりも多様なニーズに耐え得る本に仕上がってると思いますし、私のような棋力の低い者でもそれなりに楽しめてますから(実はまだ全部は解いてません・汗)オススメです。
 ちなみに、著者の片上大輔五段は、daichanの小部屋を開設されてて、将棋の話題や自分の考えなどを頻繁に開陳してくれています。また、本書p205の『コラム3・危機感』で語られていることは、daichan's opinion:「その後の世界」を展望してみるにおいてより詳しく述べられていますので、興味のある方はぜひご覧になってみて下さい。