『カラクリ荘の異人たち』(霜島ケイ/GA文庫)

カラクリ荘の異人たち?もしくは賽河原町奇談? (GA文庫 し 3-1)

カラクリ荘の異人たち?もしくは賽河原町奇談? (GA文庫 し 3-1)

 奥付のタイトルがシールで貼ってあるという珍しい脱字(注:初版第1刷)に釣られてついつい買っちゃいました(笑)。タイトルからカラクリ機械ものを想像される方もいらっしゃるかもしれませんが(私がそうでした)、さにあらず妖怪ものです。ただし、いわゆるバトルものではありません(少なくとも本書の段階では)。いや、退魔ものめいたエピソードもあるにはあるのですが、それはやるべき人がやってくれますので、主人公にはいろいろと手探りで異世界に馴染むことがとりあえず求められます。
 主人公である太一は感情の起伏に乏しく周囲の人間と上手く付き合うことができません。それには幼少期からのちょっとした理由がありまして、それを心配した父親は太一の高校進学を期に空栗(カラクリ)荘への下宿を勧めます。空栗荘とは、表と裏の世界の間にある旅館のことで、そこに住む妖怪だったり人間だったりとの付き合いを通じて太一の心も少しずつ豊かになっていく、ということなのだと思います。ローテンションな物語ですが賑やかな妖怪たち、あるいは一癖も二癖もある霊能者たちのお陰で陰鬱なものにはならずにすんでます。中でも、市松人形の付喪神であるアカネは物語を明るいものにしてくれています。
 現実を取り戻すための非現実での生活。見えないはずのものを見ることで、見なくてはいけないものを見ることを学んでいく、そんな物語です。本書では、妖怪たちの住む非現実の世界と、その中間にある空栗荘についての説明に重きが置かれています。もし続きが出るのであれば、現実世界の問題にいかに向き合うかといったところがクローズアップされることになるのだと思います。どちらかと言えば落ち着いた感じの物語なので派手さに欠けることは否めず話題にはなりにくいタイプだと思いますが、続きが出るのをひっそりと待ちたいと思います(笑)。
 関係ないですが、イラストがミギーで主人公が接触恐怖症気味ときたら、どうしても桜庭一樹荒野の恋』を連想せずにはいられません。続きマダー?(笑)