『名探偵 木更津悠也』(麻耶雄嵩/光文社文庫)
- 作者: 麻耶雄嵩
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/05/10
- メディア: 文庫
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●2ちゃんねるレスブック:コナン「よし、ここはおっちゃんを眠らせて!」
この記事を読んで面白いと思った方はぜひ本書を読まれることをオススメします。必ずや気に入ってもらえると思います。
ちなみに、麻耶雄嵩のデビュー作に問題作として知られる『翼ある闇』(講談社文庫)というのがあります。本書とは出版社が違うので分かりにくいのですが、登場人物が共通だったり、その他言えない事情などがありまして(笑)、できれば『翼ある闇』を読まれた後に本書を読まれることを強く推奨します。順番が逆だと、本書を読む分には何の問題もないのですが、『闇ある翼』の方でサプライズがちょっと減ってしまうので。
- 作者: 麻耶雄嵩
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/07/13
- メディア: 文庫
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ミステリにおける登場人物の定番として、犯人役と探偵役、それにワトソン役の3つのキャラクタがあります。ワトソン役には、読者の視点に立って物語を読者に伝える役割と、探偵役を補佐する役割の2つの役割が通常求められています。その役割ゆえ、ワトソン役の知能は読者より少し低いくらいが良いと言われたりしますが(参考:Wikipedia→ジョン・H・ワトスン)、考えようによっては読者を舐めてるような気もしますね(笑)。それはともかくとして、だからと言って、必ずしも探偵役>ワトソンである必要はないのではないか? そもそも探偵役に求められているものとは何なのか? 探偵役が上位でワトソンが下位に属するというミステリのお約束の構図をユーモア交じりに描きながら探偵役の役割を再確認させてくれるのが本書の趣向です。
本書では探偵役として木更津悠也、ワトソン役として香月実朝の二人のコンビが不可解な事件を解決していきます。このコンビが普通と違うのは、真相に辿り着くのはいつもワトソン役である香月の方が早いという点です。真相が分かったからと言って、香月はそれをぶちまけたりはしません。あくまで探偵役である木更津を立てて、木更津が困っているようなら気付かれないようにそっとヒントを出したりして、自分はワトソン役に徹しつつ木更津の活躍を見守ります。なぜなら、彼は格好いい探偵の姿を見るのが大好きだからです。私も大好きです(笑)。そういう意味では、読者の気持ちを率直に代弁してくれてるのが香月で、まさに真のワトソン役として相応しいキャラクタだと言えるでしょう。
警察の捜査はパズルではない。パズルでないとはどういうことかというと、殺人事件が起き。犯人が百個手がかりを残していたとして、警察はその百個すべてを拾い上げる必要はないよな。極端な話、たった一つしか拾えなくても、それで犯人を立証できれば十分。残りの九十九には気づかなくてもオッケー。けど、オレらがやってるのは犯罪捜査じゃない。推理ゲーム、推理パズルだ。ジグソーパズルは一つのピースでも余っていたら完成とはみなされない。だろ?
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(歌野晶午/講談社ノベルス)p150より
探偵役の仕事は狭い意味での答えを明らかにすることではありません。それならば最後は犯人による独白でも良いのです(そういうのもありますが)。ときには答えを間違えてでも、作中に散りばめられた伏線という名のピースを回収し、それらを枠にキチッとはめ込んで、鮮やかな絵として読者の前に提示する。これこそが探偵役に求められている真の役割なのです。だからこそ、香月は名探偵にはなれないのです。香月が、パズルゲームは苦手でとりあえず一段ずつ消していくタイプ(本書p267)と言ってたり、最後のほうで香月が幽霊の存在を気にも留めなかったのに対し木更津はその存在にちょっとした意味を求めようとしているところなどは、上記のことから当然のことだと言えるでしょう。
人より早く謎の答えを導き出す者という特権を探偵役から取り除き、それでも残る探偵役の仕事と魅力、その必要性。そうしたものに気付かせてくれる本書は、ミステリ読みなら是非とも押さえておかなければならない一品だと言えるでしょう。
木更津でも香月でも明らかにできない白幽霊の正体。解けない謎を最後まで残すことによって物語を閉じるというこのやり方はとてもお洒落で、まさに本書に相応しいオチだと思いました。